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INTERVIEW 「中村翔」

《弾き語りの枠を超える、シンガーソングライター》
シンガーソングライター、
中村翔。ギター1本を抱え、全国津々浦々ライブハウスやカフェで弾き語り、新宿ゴールデン街のバーで投げ銭ライブを約3年続けてきたなど、一味違った経歴を持つミュージシャンだ。一聴すると彼の音楽はポップで
とても間口が広いのに、聴けば聴くほどブルースやジャズなど様々な音楽のエッセンスを感じさせ、ときにゾクリとしたり、ときに切なくなったり、いろんな感情を掻き立られる。

そんな彼が7月にリリースした初の全国流通アルバム『RE:BEST』。どこか色気を漂わせる、澄んだ深みのある歌声とギター、曲によって表情を変える世界観が存分に発揮された、渾身の一作だ。中村翔が奏でる音楽の内側には、いったいどんな物語があるのだろう?今回は本人の縁の地であるゴールデン街のバー「ACE’S」で、これまで彼がしてきた“旅”と新作について、話を聞いた。

取材・文/ 山田百合子 撮影・記事協力/ 長塩禮子 撮影協力/ ACE’S

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最初は軽音楽部でGLAYとか演奏してました。そこで出会った友人からブルースを教えてもらった

―まずは音楽を始めたきっかけから聞かせていただけますか?

中村:中学でバスケ部に入ってたんですけど、高校ではやらなくなって、暇だなぁ、と。そこでフォークソング同好会という軽音楽部に入ったのがきっかけです。

―そこでどんな音楽をやっていたんでしょう。

中村:当時はビジュアル系が全盛期で、そのコピーバンドを(笑)。GLAYとか演ってましたね。そこで友達が「俺が歌を歌うから、ギター弾いてくれ」と。

―最初はボーカルじゃなかったんですね。軽音学部はどれくらい続けたんですか?

中村:1年生のとき、秋の文化祭がある前に辞めました。1年生はオーディションがあってそこで僕のバンドは落ちちゃったんですね。で、文化祭に出られないならやる必要ないやと…。

―なるほど(笑)。そして最初はビジュアル系だったとは。そこから友人がきっかけでブルースや別の音楽を聴くようになったと伺っているんですが…。

中村:僕にいろんな音楽を教えてくれたのは、さっき話した、僕を軽音に誘ってくれた友人だったんです。彼の家は昔から音楽好きで、お父さんが昔のレコードを沢山持ってて。それを僕にも貸して聴かせてくれた。それまで音楽にはちゃんと触れてこなかったんですけど、その辺りから洋楽も聴き始めましたね。

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近くのライブハウスで毎週セッションデーがあって、高校生からそこに通ってた。今のスタイルの原点が培われた場所です

―じゃあ高校時代はいろいろな音楽を聴きつつ、音楽活動は続けていたと。

中村その頃聴いてた音楽はLed Zeppelinとかハードロックの人たちだったんですけど、彼らのルーツはブルースにあるので、その流れでブルースも聴くようになりました。ブルースってコードがシンプルなんで、すぐセッションしやすかったんですよ。それで、たまたま自宅近くにあったライブハウスで毎週金曜日にセッションデーというのがあって、そこに行き始めたんです。

―高校生の時からセッションをやっていたんですね。

中村:はい。最初は全然分からなかったんですけど、だんだんギターのスケールなんかを覚えてきて、「あ、これブルースだと全部ハマるんだ」って感じて、通ってました。高校生は僕くらいで、あとはみんなおじさんたち(笑)。

―それはなかなかない経験ですね。この影響って大きいですか?

中村未だにそこでの経験が一番なんじゃないかと思うくらい大きいです。ブルースだけじゃなく、誰かが作曲してきた曲をセッションしたりとか。あと何人かステージに順番に呼ばれて、楽器を割り振って、例えばギターが弾き始めたフレーズに、何のプランもなく合わせて演奏していくんです。今思えば相当高度なことをやってるんですけど、当時は訳分からなかったから、何とか合わせてついていってました。

―すごくスキルがつきそう。

中村:はい。一曲やるにしても、同じふうにやりたくないとか、今度はこれやってみようというチャレンジ精神とか、今のスタイルの原点的なものが培われたと思います。大学入ってからもちょこちょこと顔出してたんで、3年くらいやってたのかな。

―自分で作詞作曲した曲は、どのタイミングからやり始めたんですか?

中村:大学出てからかな。それまでもカバー曲は歌ってたんだけど。固定のバンドに所属してなかったので、いろんな人達とバンド組んで、いろんな人のカバーやって。

―歌った時びっくりされませんでした?うまいじゃん!ボーカルやりなよみたいな…。

中村:いや…そんなことも特に言われなかったかな(笑)。歌は、多分当時下手でしたよ。歌はちゃんと自分の曲を作るようになってから、意識的に変えた部分もあるんで。

―ブルースマンみたいにしゃがれた声を出したくて、お酒でうがいする人もいると聞きましたが…?

中村:そういう人もいるらしいですね(笑)。僕も酒焼けを狙って、敢えて強いお酒を飲んでたことはあったけど。

―(笑)。では本格的にシンガーソングライターとしてやっていこうと思ったきっかけは何だったんでしょう?

中村:漠然と自分の曲をやりたいというのはずっと思ってて。それが歌うって形の表現になるのかは分からなかったんですけど。当時ブルースハープの人とユニットをやってたんだけど、あるとき彼がオリジナルを作ってきて、一緒にやってくれないかと。じゃあ僕もオリジナル曲作ってくるので吹いてもらっていいですか?みたいなところから少しづつやり始めた感じですね。

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納得のいく曲ができた時の喜びは、歌がうまく歌えたときや、ギターをうまく弾けたときより、断然嬉しい

―実際に作ってみてどうでしたか?楽しかった?

中村:恥ずかしさのほうが強かったです。人前で自分の思いのたけを歌うのか!って。やってみたはいいけど、最初すごく違和感を感じて。全然向いてないかもと思った。もうちょっと泥臭いものができるかなと思ったら、あれ?できないみたいな。

―そうでしたか。でも翔さんにしか出せない伸びやかで深みのある声って、大きな持ち味だと思います。そこからだんだん自分は「この声でいいんだ」って吹っ切れていったんですか?

中村:いや、それは今も思えてないというか…。歌は未だにコンプレックスを感じています。常になんとかしなきゃいけないなって意識はありますね。

―逆にギターにそういう思いはない?

中村:ギターにはないと思います。歌より前に出てくるものでもないし、それなりにこだわりもあるから…。

鼻歌から歌を作ると聞いていますが、それは昔からですか?

中村:そうですね。鼻歌で歌えるようなメロディが一番伝わりやすいと思うんです。口ずさみやすいもののほうが、人の耳に残りやすいというか。

―確かに、翔さんの楽曲の“どんな気分の時でも歌える”感じって好きです。幸せな時、楽しい時、ちょっとしんどい時でも、フッと口ずさめる感じ。

中村:ありがとうございます。もちろん悩むんですけど、作曲は本当、楽しいですね。納得のいく曲ができた時の喜びは、歌がうまく歌えたときや、ギターをうまく弾けたときより、断然嬉しいんです。

―そこにすごく強い想いがあるんですね。

中村そこを超えるものほぼないかな。

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『RE:BEST』は、「これはどういうアルバムですか」という問いに対する答え

―なるほど。ではここからは新アルバムの話を聞かせてください。まず、タイトル『RE:BEST』がすごく素敵ですね。

中村:そこに引っかかってくれたとは!やったね(笑)。

―今まで4枚音源を出されてきて、今回初の全国盤になると思うのですが、そこで“RE”ってついてるのが、すごく気になったんですよね。

中村:このタイトルは、レーベルの人と飲みながら出きたんです。「今回の作品は今までの集大成的な感覚」って話したら、「ベストアルバムに近い感じですか?」と聞かれたので、そうですねと。…メールって返信するとき“RE:”がつくじゃないですか。つまりタイトルに込められた意味「これはどういうアルバムですか?」という問いに対しての答えなんです。“RE:BEST”ってそんな言葉はないんですけど、3分くらいで決まりました(笑)。

―なるほど!私もカメラマンの長小も、これまでのアルバムを聴かせてもらい、まさに集大成というか、翔さんのいろんな魅力が詰まったアルバムだなと感じました。ポップなのもあれば妖艶な曲もあり、弾き語りもあって…。これまでで一番開かれた作品という印象を受けたんです。聴き手に届けよう、届けたい、届くような作りになっている。

中村:はい、ポップスもブルースもジャズも、今までやってきたいろんなスタイルを全部詰め込んだというか。今回アルバム作りに2年くらいかけてるんで…。これを受け入れてもらえなかったら、本当にしばらく打つ手ないなってくらいの感覚で作りました。

―そういうのって、もちろん歌詞で具体的に歌われるわけではないけど、気迫というか想いが、作品全体から伝わってくるものだと思うんです。“BEST”という言葉が入るにふさわしいアルバムだと思います。

中村:ありがとうございます!

―きっと誰でもサラッと聴けるし、それでいて音楽がクロウト的に好きな人にもすごく楽しめる作りになっていて。間口は広いのにいろんな形で楽しめますよね。

中村:それは常に目指していることですね。

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「春が来る」は、このアルバムの中で一番ダーク。ある場所では人々が春を楽しみ、ある場所では人が撃たれてる

―ではここからは、収録曲について1曲ずつ聞かせてください。1曲目は「Rainbow in the sky」。この曲は挨拶代わりというか、翔さんがどういうミュージシャンかがすごく伝わる曲だと思ったんですが…。やさしい音色のギターと、声とメロディの美しさが際立っていて。

中村:はい、この曲はメロディがとても好きなんです。2015年の最初に作曲した曲で、比較的新しい作品というのもあるし、イコールその時の自分の一番新しい気分が出ているというか。曲のテンポも気に入ってます。ただメロディに乗る言葉がなくてそれを見つけるのに苦労しました。そして今思い返すと、この曲を作った時は結構鬱屈としてたんだなって(笑)。

―そうなんですか?前向きな空気感を感じましたよ。

中村:前向きになりたいですね(笑)。この曲に希望を託したというか、あぁ何かいいことないかなみたいな精神状態だな、と後々思いました(苦笑)。

―そんなエピソードがあったとは…!では次の曲、とっても明るいナンバー「春が来る」は?

中村:これは自分の中でもポップな曲だなと思います。

―ライブ向きですよね。思わず手拍子したくなる。これはいつ頃できたんですか?

中村:これは「Rainbow~」の次くらいにできました。実はこれも、作った時の気分としてはあんまり良くなかったんです、またもや(笑)。

―えっ。

中村:これは2015年くらいですかね、テロのニュースを見て、結構ズシンとくるものがあって。それでも、自分のいる世界は全く変わらず、季節は春になっていくんだっていう思いも込められているんです。

―そういった時事的なことって、翔さんにとって音楽に影響をもたらすものなんでしょうか?

中村:はい。直接的な表現は絶対にしたくないんだけど。「春が来る」はもしかしたら、このアルバムの中で一番ダークなテーマの曲かもしれない。

―そうでしたか。でも、その現実の悲しさをほのめかすような印象ってあまり感じなかったかも…。

中村:実はちょっとずつ入れてますよ。サビで「パン!」っていうんですけど、それは自分の中ではダブルミーニングで。草花が芽吹いたときの希望の音と、同じ時に撃たれた人の銃声を表しているんです。…そういう部分は伝わってなかったのかな(笑)。でもだからこそ、こういう取材の甲斐があるのかも。入りやすい曲だけど、よくよく掘っていくとそうじゃないものが内在してるんですよ。もちろん春が来てウキウキしてる自分もいるけど、それと同時に悲惨な現実もあるなと。

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「Dance parade」では一曲通して“ある音”が入ってるんです。しかも一発録り!

―では3曲目、「I’m waiting for you」はいかがでしょう?

中村:これは“待つ愛おしさ”を歌っています。2年前くらいにはできてましたね。

―曲はサビからできることが多いんですか?

中村:はい。たまに歌詞が先のときもあって、それを見ながら歌って、そのまま曲になる時もあるんですけど。

―管楽器が豪華に入ってますよね。

中村:7人編成なんです。

―7人!すごい。

中村:ホーンセクションいるからといって、ガチガチに聞かせる曲でもないので。

―そうですよね、ナチュラルで心地良い世界観とメロディが素晴らしいと思います。

中村:ありがとうございます。

―次は「君の」ですね。ここで初めての弾き語り曲。何というか、言葉が直に心に沁みわたりました。

中村:弾き語りの強みですね。

―何回も聴いて思ったんですが、すごく場面が浮かぶ曲だなって。これはなぜ弾き語りにしようと思ったんですか?

中村:この曲はテンポ感があって無いようなところもあるので、これはアコギ一本でいこうと。例えばドラムで刻むとこの曲の良さが出にくいかなというか。自分の中ではそんなに人と簡単にやれる曲でもなくて。録音もギターと歌を同時に一発録りしました。

―続く「Dance Parade」で世界観がガラッと変わりますね。曲の最初から“カッカッカッ”って音が入ってるんですが、あれは何ですか?

中村:あれはタップダンスの音なんですよ。

―そうなんだ!

中村:分からないよね(笑)、タップダンスなのに録音で入ってるなんて。

―まさかなとは一瞬思ったけど(笑)。1曲丸ごとタップの音が入ってますよね?

中村:よく聴くと入ってるんです。この曲も一発録りで、スタジオに入って、全員「せーのっ!」って。

―カッコいい。臨場感が伝わってきます。もう1つ惹き込まれたのはトランペットでした。メロディも歌詞ももちろんですが、あのソロにもやられましたね。

中村:ありがとうございます。トランペットは「渋さ知らズ」の辰巳光英さんが吹いてるんです。

―そうなんですね!この曲って翔さんの持ってる色気がすごく出てると思います。アルバムの流れで、ここでバーン!と違う世界が見えてくるというか。初めて聴く人にとっては、結構驚くポイントなんじゃないかと思うんです。「楽しませる、聴かせる曲」から急にスリリングなのがきたって。

中村:それは狙ってますね(笑)。

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「やりたいことは自分に正直に突き詰めていくしかない」っていうことを歌いたかった。それが正解なのか不正解なのか分からないけど。

―この曲がここに入っていることで、よりアルバムの幅の広さを感じさせられました。では次は「ホクレアの夜」。切なくて、心に沁みる曲ですね。

中村:ありがとうございます。この曲は今日取材場所を貸してもらっているゴールデン街のバー「ACE’S」の常連さんの話をもとに作ったんです。彼が動力を持たずに進む「ホクレア号」という船の二号を創るのが夢だっていう話をしてくれて、いつもはふーんって聞いてるんですけど、あるとき何だかその話が引っかかって。

―歌詞も含めて聴くと、人に聞いた話から連想したというより、翔さん自身の歌に聞こえるんですよね。それはやっぱり翔さんが、弾き語りで全国いろいろな所へ行く、旅が身近なシンガーだからかなと思っていて。

中村:それはあると思います。聴いててシンクロする部分があったから曲にしようと思ったというか、「あ、何か同じだな」って感じて。弾き語りも動力ないなぁと思った(笑)。なんて手軽に旅に出て行けるんだろうと。体ひとつで船旅に出ていく人たちのことを思ったら、何だか彼らがすごく愛おしく思えてきて。何を目指してるのかっていうのは、もちろんそれぞれあると思うんだけど。

―サビもメロディも、感情がウワッと溢れ出すような印象を受けました。

中村:歌のメロディラインもすごく切ないし、気持ちを込めやすいっていうのはありましたね。自分にとっても不思議な曲です、これは。

―では、「拙い風景」。ここでまた弾き語りが入りますね。これは聴いていて励まされるというか、何か始めようとする時の気持ちを思い出す、背中を押してくれるような曲だと思ったのですが…。

中村:今って情報が沢山あるんで、こういう道筋を辿るとこうなるっていうロールモデルが溢れてると思うんです。でも、いざ自分が経験してみてると、その通りになることはあまりない。だから、「やりたいことは自分に正直に突き詰めていくしかない」っていうことを歌いたかった。それが正解なのか不正解なのか分からないけど。

―なるほど。

中村何かを決断するときって、結構孤独ですよね。例えば自分が決めたことに対し「そんなことしなくていいんじゃない」って軽く言う人もいるし。逆に心ある人が、「それはやったほうがいいよ」っていうこともある。でも結局最後に決断するのは自分だっていうだけのことなんですよね。僕は意外にそれがすごく難しいと思うんです。そういうのって誰の人生においても普遍的なテーマなんじゃないかと感じたので、曲にしました。

―この曲に背中を押される人は多いと思います。

中村:僕自身もそうですよ(笑)。

―では、次の曲は「三日月」。これは何というか…大人の曲ですね。

中村:はい。曲自体は3~4年前くらいにはできてました。

―ある男女の気持ちの揺れを、三日月に例えているのかなと。

中村:…ドロドロしてますよね(笑)。けど分かりやすい、想像しやすい曲でもあると思います。音作りが難しくて、楽曲の世界観を表現するための楽器を集めるまでにすごく時間がかかりました。弾き語りでやるのも何か違うし、今回やっと形になった、という曲です。

―スリリングで、聴いてるとゾクゾクします。そしてその後の「Rain & Pain」でまた雰囲気が変わりますね。雨の音を彷彿させるギターの音色が素敵です。

中村:これはすごくソウルマナーにのっとった曲というか、様式美があって、結構作りやすかったです。できるまでは苦労したけど、サウンドを作るのはすごくイメージしやすかった。バンドでやりたい曲ですね。

―歌詞がとっても優しいですよね。

中村:自分の中ではっきりとした景色があって、それがうまく出せたかなって。

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これまで音源を人に託すことがなかったので、自分にとってはすごく冒険でした

―「Snowdrops are fallin’」は、打って変わって打ち込みのサウンドですね。このハーモニーや音は、全部自分で重ねたんですか?

中村:この曲は、VASALLO CRAB75というバンドのVo./Gt.工藤大介さんというミュージシャンにトラックを作ってもらったんですよ。ドラムも打ち込みで、いろんな音を使って。コーラスも全部お任せしました。僕はギターの弾き語りの音源を送っただけなんです。

―そうなんだ!

中村これまで音源を人に託すことがなかったので、自分にとってはすごく冒険でした。

―なんで託そうと思ったんですか?

中村工藤さんがいろんな洋楽を打ち込みでカバーした音源のデモを、縁あって聴かせてもらったんです。そのとき僕は外国の人が作ったのかって思うくらい、日本人にはないようなセンスを感じて。すごいと思ってたら偶然本人を紹介してもらって。その時はただすごく良かったですと伝えただけだったんですが。その後にこの曲ができて、トラックメーカーとしてお願いしたいなと思ったんです。

―やっぱり他の曲と毛色が違ってて、この曲が入ることでまた世界観が広がってますね。

中村:はい。1曲誰かに委ねるって自分の中ではある意味勇気がいるというか、信頼がないとできないので。本当に彼にお願いして良かったです。

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人の間で生きる以上は、全部全部、乗り越えていかなきゃいけない

―その次は、インストの「Sound of Aurora」ですね。これはどういうきっかけで作ったんですか?

中村:これは…偶然見ていたテレビがきっかけです(笑)。ルー大柴さんがアラスカのオーロラを見る旅みたいな番組で。

―そうなんですね。でもそういうところから取っかかりを得て、オーロラを想像させるような音作りができるってすごい。

中村:インストだからこそできた部分はあるかもしれないです。原住民の人たちが、オーロラが出る時に「オーロラの音が聞こえる」って話してたんですね。素敵なエピソードだなと、自分なりに想像して。楽しく作れた曲です。

―インストを作る時って、歌詞があるのとは全然違います?

中村:はい、やっぱり音だけだから、いつでも好きな音にいけるので。歌がないと選べる音が全然違ってくるんです。だから僕、インストすごく好きなんですよ。

―では、最後の曲「夜を越えてゆけ」。聴き込めば聴き込むほど心に響く曲だと感じました。…これは誰かのために歌ってるんですか?それとも自分に向けて?

中村:自分に向けても歌ってますね。この歌詞の内容は、本当にいろんなシチュエーションであるようなことだと思うんです。当事者じゃないのにとやかく言う人たちって沢山いますけど、それも人間だなっていう思いもありますし。だからそこを乗り越えていく。人の間で生きる以上は、全部全部、乗り越えていかなきゃいけないなって。

―なるほど。でもその自分に言い聞かせるような思いが、結果人を励ますような、そんなあたたかな曲でもあると思います。

中村人に向けて歌っている、というふうにも聴こえるのであれば、一番嬉しいですね。

―翔さんという歌い手がいそうでいない、いなそうでいる感じ。そこがすごくいいと思います。

中村:その辺は、すごく気にして作っています。

―この曲に限らずですか?

中村:全部そう。自分がまったくいない曲も嘘でしょうし、少しづつ何かが見える言葉選びというか、場所・場面っていうのは常に意識してますね。ちなみにれは自分でもアルバムの最後の曲だってずっと思ってました。

―そうだったんですね。翔さんの音楽って、お話を聞くと色々エピソードが出てくるんだけど、基本はすごくサラッと聴けるというのが実はすごいことだと思うんです。聴きやすい、入りやすい、でも、やっぱり面白い。

中村:そう言ってもらえるとありがたいですね。

バー「ACE'S」のマスターと

バー「ACE’S」のマスターと

とにかく沢山の人に聴いてほしい。今あるものを出し尽くした『RE:BEST』です

話は変わりますが、ギター1本で旅をして、いろんな場所へ行って歌ってきた中で、特に印象的だったり、曲に反映している部分ってありますか?

中村:全部に反映されてるなと思います。…基本的に旅は楽しいけど、やっぱり辛いこともありますね(笑)。全部自分に返ってくるというところかな、良くも悪くも、すごく生々しい。ブッキングを始め全部自分で段取りを取って、実際にライブをやるのは数十分~2時間くらいで。ライブに至るまでの道のりが結構大変ですね。とはいえ行く場所ごとにその場にいるいろんな人たちの想いがあるから、それは可能な限り汲み取りたいですし。

―なるほど。翔さんが旅に出始めたのっていつ頃ですか?

中村:2012年ですね、もうまる4年くらい。旅に出始めて、半年くらい経った後ここ(バー「ACE’S」)で投げ銭ライブやらせてもらえませんか?ってマスターに相談しました。

―翔さんの音楽や、一貫しているタフさって、ゴールデン街でのライブの影響も大きいですかね。

中村:ここの影響は完全にあります!ここは僕の虎の穴なので(笑)。3年弱くらいやってましたし。

―それも味になってるというか、曲に滲みでるんじゃないかなと。他になかなかこういう経験してるアーティストさんっていないですよね。

中村:これで滲み出なかったらなかなかすごいかも?何も変わらない、みたいな(笑)。

一同笑

中村:ここでやっていて面白かったのは、もちろん大変なことでもあるんですけど、毎回思い通りにいかないってとこ。何とかあの手この手で人を引きつけなきゃいけない、いわゆる力技的な部分が鍛えられましたね。聴いてもらえてる前提でライブをやっているわけじゃないので。やるからにはバーにいる人の“お気に召させなければいけない”。それも上手くいったりいかなかったりで…。まさに虎の穴ですね。マスターには本当に感謝してます。

―ありがとうございます。では最後に、アルバムを聴く人へのメッセージがあればお願いします。

中村:とにかくアルバムを気に入ってもらえたらすごく嬉しいです。本当に僕にとっての“RE:BEST”で、今ある全てを出し尽くしました。沢山の人に聴いてもらうためだけに作ったと言っても過言ではないです。いろんな人に聴いてもらって、ライブにも来てほしいです!

―私もそう思います!自分でも大納得というか、妥協なきアルバムという感じですか?

中村:はい。でもまた次に作る時には、きっと何か物足りないなって感じると思うんですけどね(笑)。

中村翔 offical website

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special thanks! ACE’S

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