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LIVE REPORT 山口洋『Scene of the Soul beyond 3.11』@国立やまもりカフェ

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天気は快晴。イベントが始まる夕方には、広い庭や甲州街道を見渡せる大きな窓から傾きかけた陽が差し込んでいた。窓辺には干し柿が吊るされている。使い込まれた畳に、手の込んだ欄間。古い木戸の洗面所や、丸石が敷き詰められた土間。そんな誰もの郷愁を誘うような空間、国立の「やまもりカフェ」で、HEATWAVEのVo./Gt.山口洋のミニライブ&トークイベントは行われた。

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このイベントは国立に住む、また国立に縁の深い人達の並々ならぬ熱意と努力によって実現したもの。また「できるだけ地元の人たちに観てほしい」という山口の思いから直前まで公式な告知はなされず、地域に根付いた古民家カフェで三多摩初という貴重なライブへと繋がったのだ。

「山口洋の自己啓発セミナーにようこそ!」。そんな最初の言葉に、笑いが起きる。「干し柿が見える場所で歌うのは初めてですが(笑)、楽しんでいってね」。1曲目は佐野元春の名曲「君を連れてゆく」のカバー。人は失敗しても、何度でもやり直すことができる”。そんな、今の時代に改めて沁みる歌詞、そして1本のギターから奏でられているとは思えない変幻自在の音色が、部屋中をじんわりと満たしていく。

ここで主催者の1人、ライター・村崎文香とのトーク。1979年に福岡県で結成されたHEATWAVE、その結成当初の話や「どんな高校生だったか」という問いに対し、「大体想像がつくかもしれないけど(笑)、その時俺はどうしようもない怒りを抱えて、周囲と全く馴染めない人間だった。あるとき畑のど真ん中でね、ピカッと天命を受け“音楽をやろう”と思ったんだ。それからグレッチを60回払いのローンで買った。清水の舞台から飛び降りるような気持ちだったよ」。

まるで夫婦漫才(山口談)のような笑いの絶えないかけ合いを挟みつつ、話は山口が3.11直後に福島県相馬市の人達と復興を目的に立ち上げた有志の集まり“MY LIFE IS MY MESSAGE”や、当時のことへ。

「震災のときアメリカにいたんだけど、日本に帰って現地へ行ったときに見た、山から戻ってきた捜索隊の人達の表情が今でも忘れられない。それは震災の恐ろしさ全てを物語っていて、もう“未来は当たり前のように来ない”と感じた。だから辛いけど、俺は自分のやれることはやってみようと思ったんだ」。

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「今も毎月2千円とか、ずっと俺達の活動に寄付してくれる人がいる。だから俺はそれを受け取って音楽を続けて、ずっと寄付を続けていきたいと思ってる。たまに5年半ってあっという間だったねっていう人がいるけど、とんでもない。こんなに重い5年半はないよ。…4月の熊本の地震で、自分の家が、愛着のあるものが完膚なきまでに叩き潰されてさ。被災するってこういうことなんだって実感した。でも俺はいやしいから、これを見て“また曲ができるんじゃないか”なんて思ったりもして」。

「今でも許せないのは、自分があの電気を平気で使っていたこと。その罪は、一生償っていくつもりだよ。こんな未来は子供達に残せない。日本は未だ約7万人が故郷に帰れないのに、オリンピックをやる国。俺は偽善者と言われようと平気だし、人生は一回しかない。だからやりたいことをやって、例え最後の1人になっても自分が間違ってると感じることは、山のてっぺんに登って“違う!”って叫んで死にたいんだ(笑)」。

トーク中は終始山口の愛嬌たっぷりのギャグややさしい人柄が滲み出る言葉、村崎の鋭い切り返しが挟まれ、ときに爆笑も起こる明るい雰囲気だったが、ここでは核になる話だけを抜粋した。笑いながらも自らの思いをまっすぐに語るその姿から、“個”として生きる深い覚悟と強さが伝わってくる。

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そしてミニライブが再開されると、一瞬で空気が変わる。まるで生き物のように表情を変えるギターや、深く低く響く、あたたかな歌声。彼だけの“音楽の魔法”があっという間にその場を包み込んでいった。桜井和寿がBankBandでカバーした「トーキョー シティ ヒエラルキー」や、沢山の人や場所に受け継がれ続けている名曲「満月の夕」、「新しい風~ロックンロール」では手拍子と共に、客席に満面の笑みが広がる。時々歌詞の一部を「国立」や「やまもりカフェ」に変えて歌うと、その度に歓声が上がった。

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ロックミュージシャンと和室、というのは、正直に言って何とも不思議な違和感があった。けどその違和感こそが、山口のエネルギーや音楽の引力を一層際立たせていたように思う。靴下のまま演奏したり、“ステージ”の後ろにはのんびりとこけしが2体並んでいたり…。お客さんとの距離も近く、少々照れくさい部分もあったようだが、そんな彼を見る全員の表情が何とも幸せそうで、それがこのイベントの意味を物語っていた。

やさしくて熱く、無骨で繊細な少年でありながら、明日と自らを見据える覚悟を持ちあわせた大人。普段のライブとはひと味違う形で山口洋の音楽と心が密に感じられた、あたたかくてどこかこそばゆいような、沢山の愛に満ちたひとときだった。

【SET LIST】
君を連れていく
トーキョー シティ ヒエラルキー
満月の夕
それでも世界は美しい
新しい風~ロックンロール
歌を紡ぐとき

文/ 山田百合子 撮影/ 長塩禮子

国立「地球屋」でのライブレポートはこちら!
HEATWAVE Official Website