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INTERVIEW 優河 2nd full album『魔法』後編

「別れ」がテーマ、と優河が語る2ndフルアルバム『魔法』。そこには別れにまつわる様々な悲しみや切なさとともに、彼女の「決意」も強く表れていた。引き続き作品について、そして彼女の心の大きな変化について、話を聞いた。

別れがあっても前向きでありたい、という思いを込めて

―次は「手紙」。これは収録にあたり、「とうの昔にあなたが」というタイトルから変わってますね。

優河:はい。本当は『Tabiji』に入れるつもりだったんですけど、いろんなきっかけが重なり、結局叶わなかったんです。そのときから自分の中でずっと抱えてきました。けどずっと歌い続けていくうちに、だんだん私個人としても、曲そのものから見える景色も、違うものになってきて。今回やはり収録しようと決意したんです。千葉広樹さんがシンセでアレンジをしてくれて、とてもよく仕上がったと思います。

ーそうだったんですね。

優河:改めて録ってみたら、やっぱり作った当時とは感覚が違ってて。同じ歌なのに、いろんな経験をした今では違う景色がいくつも浮かんでくる。歌うときにひとつのことに縛られなくなったっていうんでしょうか。曲が本当に1人で歩いている感じ。

ー以前、「曲を自分のものと思うなんておこがましくてできない」って話してましたけど、曲が1人立ちした感覚があるんですかね。

優河:そうかもしれません。

ー歌詞にある「手紙」という言葉をタイトルに選んだ理由は?

優河:別れがあっても前向きでありたい、という思いを込めて選びました。あと、自分の中で捉え方が変わっていったみたいに、たとえば“未来の私から今の私”へ宛てた手紙ように、ときを経て気付くことって必ずあるから。自分自身にとっても、聴いてくれる人にとっても、そんなことを思い出すきっかけになったらいいなと思ってます。

誰も失わないで生き切った人なんていない

―次は「さよならの声」ですね。“もう決まってしまった別れ”への悲しさが歌われていて、たとえば聴く人それぞれの別れの体験や、その切なさに寄り添うような印象を受けました。

優河:これはこのアルバムのために作った曲なんです。今でも鮮明に覚えている朝の風景があって、そのとき感じたことを歌詞にしました。ピーンと張り詰めた、別れを経験する直前の空気。恋人でも友達でも、誰かと本当に別れる直前って、何となく解りませんか?「あ、これは本当に終わりなんだ」っていう感覚。いつも、それを教えてくれるのって誰なんだろうって思うんですよ。

―個人的に思うのですが、優河さんはそういうのを感じる力が強いんじゃないかな。

優河:ある瞬間にハッキリ「今だよ、ここだよ」って、誰かに伝えられる感覚があるなって昔から思ってて。この曲はそういう感覚から来ている歌でもあるんです。…なんか小さい優河みたいなのが耳元に来て「今だよ!」(優河裏声)って言われてるようなイメージ(笑)。

―(笑)。

優河:でも、私としてはこの曲も暗いものじゃなくて。別れって、生きていくなかで起こって当たり前のこと。誰も失わないで生き切った人なんていないじゃないですか。だから本来、すごく自然なことだと思う。別に特別なことじゃないというか、そんなふうに客観的に捉えてるところはありますね。

―そうなんですね。いま歌は優河さんにとって、これまでよりもっと個人的な、身近なものになっているんだなと改めて感じました。そういう点でも、今回のアルバムはより多くの人に突き刺さると思います。

優河:ライブで歌っているときや、曲を届けた後「歌は自分で所有しないもの」だって思いは、昔からあまり変わってないんですけどね。曲作りや作品に残すことにおいては、確かに前よりずっと人間っぽいというか、個人的になりました。自分の生身の体が、歌の中にある感じ。

―なるほど。

優河:もともとの曲の世界観が神話的でファンタジックだとすれば、このアルバムは2018年という今の、現実の感覚が反映されてるんです。1人で音楽を作る立場になって、言ってしまえば「あぁ、ワガママじゃないとできないな」って思ったから。作品全体に自分の意志や意識が強く表れてます。

とにかく「歌いたい!」って爆発的な欲が生まれたんです


―ところで、『Tabiji』リリース後はおおはた雄一さんとツアーやミニアルバム『街灯りの夢』のリリースなどで、一緒に活動されてましたよね。優河さんの音楽活動において、その影響はやはり大きいと思うのですが、いかがですか?

優河:もちろん大きいです。おおはたさんと演ってきた音楽は大好きで、喜んでくれる人も沢山いました。おおはたさんが引き出しをバァッと開けてくれたことで、「歌うことって楽しい!」って思えたんですよ。もちろん技術的なところもあると思うんですけど、「こういうふうに歌いたい」じゃなくて、とにかく「歌いたい!!」って爆発的な欲が出てきたんです。

―それってすごいですね。

優河:今まではなかった感覚でした。“たなばたのうた”(2017年7月開催のワンマンライブ)辺りが、その気持ちのピークだったかもしれません。けど、だんだんとおおはたさんに頼り過ぎている自分に気が付いて…。自分がこれからやるべき音楽、やるべきことを冷静に考えたんです。そしてもう1度、1人でやってみようって自然に思いました。

自分にとって「美しい」と思うことを押し切る勇気

―作品ももちろんですが、MCなんかでも最近どこか吹っ切れた印象があって。より本来の、というか、素の優河さんが出ている気がします。

優河:金髪パワーで意志も強くなったし(笑)。リーダーになって優河チームを作っていきたいんですよ! このアルバムには、そういう決意も表れているかも。つくづく自我が強くなったなぁと思います。

―自我が強くなったと言うと…?

優河:自分を信じて、私にとって「美しい」と思うことを押し切る、という感じですかね。それってすごく勇気のいることなんだけど、それでも。もちろん人の意見を受け入れることが必要なときもあるけど、核となる部分に関しては、己の感覚に従う。ここは外さない、これが絶対いいって言い切る。「自我」とか「欲」ってそういうことかな。自分自身を自分で認めて、さらにみんなにも「認めてくれ!」って思う気持ちが強くなりました。

「私の夢を壊す」って、結局自分に向けて言ってるんですよね

―8曲目の「岸辺にて」ですが、これはアルバムタイトルにするかどうか迷った曲とか…。

優河:「さざ波よ」とこの曲は、このアルバムの肝というか、軸になってるんです。

―「あなたの淋しい瞳は/私の夢を壊すから」という言葉がとても印象的でした。

優河:これにも、本当に自分1人でやっていく、このままじゃだめだっていう意思が込められてるんです。私、実はいろんなことに気を遣って思うように動けないことが多くて。でも音楽をやっていくと決めた以上、それだと自分の本領を発揮できないかもしれないし、たぶん言い訳にしかならないんです。「私の夢を壊すから」っていうのは、結局自分に向けて言っているんですよね。

―覚悟の表れですね。

優河:そうですね。「腹を決めた!」って曲でもあります。

―音的にはどうですか?

優河:ライブで初披露したときから、千葉さんがウッドベースをアルコ(弦を弓で弾くこと)で演奏していて。音源でも絶対この感じでいこうって決めてたので、アレンジで悩むことはなかったですね。千葉さんに「あの世感あるよね」って言われたけど(笑)、分かる気がします。曲からイメージする情景に、現実感がないからかもしれない。

ーなるほど。

優河:最後の岡田拓郎くんのギター・ソロが、歌に歩み寄ってくれててすごくいいんです。いつもライブではその部分をハミングしてるんですが、音源ではそこを彼のギターが代弁してる。この曲で大活躍してくれました。

最後の曲で、聴く人の気持ちがフッとほぐれたらいいな

―では最後の曲「瞬く星の夜に」。これも以前からある曲ですね。

優河:4年くらい前に作りました。

―この曲が最後の理由は?

優河:アルバムのテーマは別れなので、暗いかもしれないけど、全体としてそうは受け取ってほしくなくて。だから最後にこの曲を聴いて、聴く人の気持ちがフッとほぐれたらいいなと。緊張感のあるテイクだとは思うけど、林正樹さんのピアノの音色も優しいですし。

ーこれは歌とピアノだけですね。

優河:はい。歌とピアノを同時に録って、それがバチッと合った「これだ!」というものを収録しました。

―この静かに終わっていく感じ、落ち着きますよね。これは以前「幸福の王子」(オスカーワイルド作の子供向け短編小説)の朗読劇を行ったときに作ったテーマ曲とのことですが、それを知っているかどうかで、また違って聴こえると思います。

優河:そうですね。あと、ここまでずっとバンドアレンジなんですけど、この曲が今まで聴いてくれてた人の、私のイメージに近いかもしれないと思って。だから偉そうに聞こえるかもしれないけど、「ちゃんとここにいるよ、変わってないよ」という気持ちも込めてます。アコースティックで歌っているイメージが強い方も多いと思うので。

―そうですね、ほっとするかもしれない。

優河:それと歌詞にもあるけど、この世界には本当に悲しみと喜びが同時に存在してると思っていて。アルバムを通して言えることなんですけど、それをどういうふうに捉えていくか、というのも自分の中でテーマですね。悲しみも、希望のある形で受け止めていきたくて。

1人ひとりに手渡しして周りたい。絶対に聴いてほしいんです

2018.3.2 Released『魔法』

―ここまでアルバムについてお聞きしました。弾き語りのイメージの、変わらない優河さんも求められ続けると思いますが、同時に変わっていく優河さんを求めている人も多いと思うんです。

優河:じゃあこれからはもっとオラオラ系で(笑)。個人的には、もっと同年代の人達にも聴いてほしいんですよね。曲にどこか現世的じゃない印象を持たれてる部分もあると思うんですが、単純に、同じ時代を生きている人に、共感されないのってさみしいじゃないですか! だからとにかく、1人でも多くの人にこのアルバムを聴いてほしい。自分で1人ひとりに「聴いて!」って手渡しして周りたいくらいです。

30歳までに紅白。そのくらいの気持ちがないとやっていけない!

ーその意気込み、素晴らしいです。振り返ると、この1年半でご家族との共演もされましたね。以前はあまり公にはしたくないという意識が強かったと思うのですが、心境の変化というのは?

優河:まぁもういいかって、吹っ切れた感じですね。両親の名前で売っていくのはもともと嫌なんだけど、今ならきっとどこへ行っても戦えるだろうし、「だからどうした!」というか。父(石橋凌)とは、父の還暦を祝うライブで初めて共演したんです。本人から直接誘いを受けて、迷った結果、やっぱり同じステージにたってお祝いしたいという気持ちで出演させてもらったんですけど。…出る前と後で、思ったより何の反応もなかったんですよ(笑)。結果的にそれで吹っ切れた部分は大きいです。もう隠すことはないなって。この1年半で母とは朗読のイベントで(原田美枝子)、妹(石橋静河)とはCMで共演しましたね。

ー1年半で一気に、と思うと、すごいですね。

優河:やっぱり何かを隠すと、思い切り飛び出せないというのはあると思うし。持って生まれた環境がたまたま、ですから。でもそれを認めるまでに時間はかかりましたけどね(笑)。そこに対して自分ができることがなければ潰れちゃうし。けど今は平気なんです。

―自分自身に確信を持てた、という気持ちの変化があったんですね。…最近「紅白に出る」ってよく話してますよね!

優河:それは比喩でもあり現実的な目標でもありますが…30歳までには出ます(笑)。それくらいの気持ちがないと、この先やっていけるはずがない!

優河 offical website

魔法』

special thanks! P-VINE

文/ 山田百合子 撮影/ 長塩禮子