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LIVE REPORT 『too close to know』 release one-man show 2020.2.5@恵比寿LIQUIDROOM

 久々に、何もかもが吹っ飛ぶくらい楽しかった。早く、早く。忘れてしまう前に書かないと。帰り道、私は急いで感想をスマホに書き留めている。奇跡のように幸せな2時間。体は勝手に反応し、涙が幾度か流れた。音の洪水に惹き込まれ、気付いたら声を上げ、満面の笑みで笑っていた。

1年ほど前、渋谷WWWのワンマンで初めて彼らを観たとき、結成時に「3年でLIQUIDROOMに連れていく」と井上惇志(key.)が根津まなみ(vo.)約束したというエピソードを知った。その夢を2人は、バンド結成から約4年、ユニットになってから2年強、しかもソールドアウトという形で叶えたのだ。だからこの日は本人たちをはじめ、ともに音楽を創りライブを重ねてきたミュージシャン、多くの仲間たち、そして沢山のリスナーにとって、始まる前からとても意味のあるステージだった―。

 ふと照明が落ち、メンバーがステージに現れる。客席から熱のこもった拍手。今回はサポートに2ndアルバム『too close to know』のレコーディングにも参加した玉木正太郎(ba./syn.)とタイヘイ(dr.)、チェリストの伊藤修平率いる弦楽器のグループ“しゅうまいカルテット”も参加した豪華な編成だ。

「aurora」からライブはスタート。弦楽器が入ったスペシャルなアレンジ、軽快に刻まれる井上の鍵盤。その中を根津の歌声が揺れるように泳ぎまわる。疾走感溢れる「highway」、じっくり聴かせるバラード「flashback」の後は、2ndアルバムのために書き下ろされた「baby」。弦の美しい音色に、祈るような、願うような言葉とメロディーが滑り込み、胸を打つ。

彼らのライブの凄さは、「生の意味がある」演奏力と表現力だと思う。バシィッと曲が終わり、それぞれの楽器の余韻、その後の静寂すら音楽になる。極限まで研ぎ澄まされた集中力が織りなすセッション。根津は「緊張感のある曲たち」と称したが、その緊張感に、観る者がどれだけ惹き込まれていることか。それでいて全員が“魅せるプレイ”で楽しませてくれる。

 「我ながら褒めたいくらいshowmoreらしい曲。関わってくれた人たちにリスペクトを」という一言に次いで奏でられた「dryice」、胸が詰まるような恋愛ソング「unitbath」に続き、“全ての女子に捧ぐ”「bitter」を披露。KenT(sax./fl.)、山田丈造(tp./f・hr.)によるホーン・セクションも加わり、これぞライブの醍醐味と言える贅沢なバージョンを聴かせた。


流れるようにズンズンと進んでいくドラム、うねるベース、サックスの堂々たるソロ。井上にしか弾けない色気を孕んだピアノに、根津にしか出せない情感ある歌声。洪水のように溢れ出す音や感情とジャジーなリズムが体を芯から揺さぶり、音楽に身を任せる歓びが会場を満たす。勝手に出てしまう、という表現がぴったりな歓声の数々。それは純粋に彼らの音楽そのものの力に動かされた、何よりの証拠だった。

 恋のときめきを歌った軽やかなナンバー「1mm」に続いて、彼らのプロフィールに添えられていた一文“正しい事ばかり言わないで。人は寂しい生き物でしょ”という歌詞が入った「27」へ。showmoreというユニットの本質と磁力を纏ったこの歌に出てくる女性の“寂しさを埋める行動”に、共感こそすれ、一体誰が責められるだろう? 根津は私たちが言葉にできない感情を、圧倒的な歌唱力をもって表現してくれる。

CHARAのカバー曲「恋をした」で、会場の熱気はさらにアップ。「now feat.SIRUP」では、まさかのSIRUP本人が登場! 驚嘆の声が上がる。彼のセクシーな声とライム、根津の伸びやかな歌声が織りなすハーモニー。向かい合って歌う2人の姿はお互いにとって、そして観客にとっても、同じ曲でセッションした1年前のステージとは意味合いの違う、貴重なひとときだったに違いない。サビの「now」の部分を、みんなが笑顔で叫ぶ。

 生演奏ならではの躍動感に溢れた「solitude (interlude)」の後は、バンド編成の「I don’t love you」。静かで、痛くて、激しい怒りを押し殺したような、こんなに切なく苦しい「愛してる」があるだろうか。続く「red」では、カクテルを思わせる赤い照明が瞬きながらステージを照らし、聴き手に迫りくる圧倒的な世界観を際立たせた。

 ライブはあっという間にラスト2曲に。根津と井上が話す。
根津:「アルバムができるまでライブやらないって決めてたら、3カ月も曲ができなくてすごく苦しかったよね。…便秘みたいなもんだね(笑)。普段あまりストレスをためないほうなんだけど、ライブの1週間くらい前はめちゃめちゃ不安で。けど2~3日前になったら急に吹っ切れて、今日は楽しみで仕方なかった! こんなに沢山集まってくれて、本当にありがとう」
井上:「2人で組んでから約2年で、約束の場所に来れました。こんなんじゃまだ終わらないよ! 根津にはもっとすごい景色を見せてあげたいから」
湧き上がる歓声。すかさず「かっこいいこと言うな、メガネ!」とツッコむ根津とのやりとりが微笑ましく、胸が熱くなる。

「この曲を作った時は辛かったけど、今は幸せです」。そんな言葉の後に歌われたのは、2ndアルバムのラストソング「call my name」。

人は少なからず、物語に惹かれる。自分を重ねたり、感情移入できたりする物語に。そういう点でshowmoreの苦悩や躍進劇は、聴き手の心を動かすには充分すぎる物語性を持っている。しかしもちろん音楽やライブが素晴らしいものでなければ、どんなエピソードも輝かず、ここまでの道は開けなかったはずだ。だからこそ、彼らの活躍は多くの人に祝福され、応援されるのだろう。

 本編ラストを飾ったのは代表曲「circus」。一生忘れられない、最高の光景だった。「SOSに気付いて YESと言えずに繰り返して…」。誰にも言えない孤独と葛藤を叫ぶような歌詞と切ないメロディーが、満面の笑顔の大合唱で満たされる。それこそが、この曲が名実ともに名曲としてさまざまな人の心に存在しているしている証だ。私の頬には、知らず涙が伝っていた。とてもとても、幸せな涙だ。

 この日舞台に立ったshowmoreは、紛れもないプロフェッショナルであり、ポップスターだった。彼らの魂のこもった音楽は、音を音以上に、歌を歌以上に昇華させている。

ストリングス用ブースの透明な板に、観客の女の子の顔が反射していた。呆然、とも見入っているとも言える眼差し。涙をぬぐう金髪女子、根津ファンと思われる熱心な男の子たち、終始楽しそうなOLのグループ、一人で来たスーツの男性に、音楽仲間。この日のライブは全ての人の胸に“物語”を呼び起こし、大きな感動と希望、そして冷めない余韻を残しただろう。

showmoreはきっと、これからも私たちに沢山の夢を見させてくれるに違いない。


【SET LIST】
1.aurora
2.highway
3.flashback
4.baby
5.dryice
6.unitbath
7.bitter
8.1mm
9.27
10.恋をした
11.now feat.SIRUP
12.solitude (interlude)
13.I don’t love you
14.red
15.call my name
16.circus

en1.have a good day
en2.rinse in shampoo

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showmore(ショウモア)
根津まなみ:vocal
井上惇志:Keyboard/produce

2017年9月より始動し、配信限定シングル「circus」をリリース。完全なノンプロモーションにもかかわらずYoutubeでのMVが300万回再生を超えるなど一躍話題となる。2018年5月に1stアルバム『overnight』をリリースし、同年6月に「恋をした/circus」の2曲を7inchアナログ盤としてアルバムからシングルカット。2019年12月に2ndアルバム『too close to know』をリリース。

SUPPORTMUSICIAN
タイヘイ(from Shunské G & The Peas):drums
玉木正太郎(from Lululu):bass/synthesizer
KenT(from Soulflex):sax/flute
山田丈造(from Shunské G & The Peas):trumpet/flugelhorn

しゅうまいカルテット
伊藤修平:cello

めかる:violin
谷崎舞:violin
角谷奈緒子:viola

OPENING DJ
君嶋麻里江

文  山田百合子
撮影  Kana Tarumi / Yosuke Kamiyama