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~見つける、つながる。音楽の街~

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INTERVIEW「優河」

《今、新しい旅が始まる。歩き出した“うたうたい”の物語》

「彼女の目で、世界を見てみたい」。“一瞬で世界を変える歌声”の持ち主、優河の音楽に触れたとき、ふとそんな思いが頭をよぎった。例えば都心に住む人なら避けて通れないゴチャゴチャした街並みや人ごみ、どこか殺伐とした空気…。その日常は、彼女の生活の中にも少なからず存在しているはずだ。しかし優河はそんな世の中にいながら世界を全く違う視点で見つめ、キラキラと光る“何か”を、まっすぐな愛をもって切り取っている。

古い映画のワンシーンがありありと目の前に広がるような物語を紡いだり、話したこともないおじいちゃんのために曲を作ったり。彼女は一体何に触れ、どんなふうに世界と向き合って生きてきたんだろう?下北沢440でのワンマンライブは完売、11月にリリースした初の全国流通フルアルバム『Tabiji』も初日に品切れが出るなど、今まさに羽ばたこうとしている23才のシンガーソングライター。アルバムに込められた想いと共に、彼女がこれまで見てきた景色にフォーカスを当て、話を聞いてみた。

取材・文/ 山田百合子 撮影/ 長塩禮子 撮影協力/ ムムリック・マーフィー

実は高校の終わり頃まで、音楽にあまり興味がなかったんです

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―今日は優河さんのバックグラウンドからお聞きしたいと思います。ご兄弟がいると伺いましたが…。

優河:はい、3つ上の兄と3つ下の妹がいます。真ん中ならではの大変さはありましたが、すごく仲はいいですよ。一時期みんな同時に留学していて、私はオーストラリア、妹はボストン、兄がフランスで、3大陸に子供たちが散ってました(笑)。

―そうなんですね。小さい頃から音楽は身近なものだったんですか?

優河:はい。でも実は高校の終わり頃まで、音楽にほとんど興味がなかったんです。高校生のとき女子の軽音バンドが流行って、そのとき流行りの音楽は聴き始めたんですけど。映画で使われた洋楽やグリーン・デイを聴いてました。

―グリーン・デイ!それは意外…。優河さんはどこか年齢にそぐわない不思議な雰囲気を纏っているので、その理由は何だろうと思ってたんです。例えば英語の発音ひとつ取っても「この人はどういう世界を見て生きてきたのかなぁ」と想像させるところがあって。

優河:うーん…、実は高校生のときは“特にやりたいことやできることがない”と思う時期があって、それをコンプレックスに感じていたこともあったんです。だからその頃自分の意志で1年間留学したのは大きかったかもしれません。

ホストファミリーに半年間無視されてたけど、耐えました(笑)

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―なるほど。優河さんにとって留学ってどんなものでした?

優河:まず向こうの高校生ってみんなすごく素朴で、東京の変に大人びた子供とは違って純粋でした。それに“この人がこう決めたらこう!”って感じで、周りも口を出さないし、余計な情報がない環境が良かったですね。…けど実は私、現地のホストファミリーに最後の半年間、無視されてたんです。

―えっ、半年間…?

優河:すっごい過酷でしたよ~(笑)。5人家族の3人姉妹だったんですけど、ホストマザーのお母さんが亡くなった頃から様子がおかしくなって。あるときお母さんが私を無視し始めて、そしたら娘たちも一緒になって…。

―それ、考えられないくらいキツイですね…。

優河:もう家帰ったら一言も口きかなかったです。その代わり学校がすごく楽しくて、友達も沢山いたし先生も良かったから、学校を変えたくない一心で我慢してました。忍耐力付きましたね(笑)!

―それは付きますよ!

優河:現地のコーディネーターに相談してホストファミリーを変えることもできたんだけど、私、逆にコーディネーターの女の人に相談されてたんですよ。彼女から「何でみんな我慢できないのかしらねぇ」とか言われてて、“これは言えないなぁ”と。でも耐えられなくなっちゃったんでしょうね。日本に帰る2日前くらいに電話で話したら「何で言わないの!?」って怒られて…「あ、すみません。ですよねぇ(笑)」みたいな。

―なるほど(笑)。しかし10代でそこまで相手を慮るって、かなり芯が強くないとできない気がします。

優河:ですよね…。もともとの性格はあると思うけど、今はもうできないなぁ(笑)。でも英語上達しましたよ!友達や先生に“こういう状態なんだ”っていうのを何とか伝えようとして。だから結果としては良かったし、強くなったと思います。

3ヶ月泣き続けて、気付いたら“新生優河”になってたんです。もう別人物、赤ちゃんみたいにツルピカ!

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―確実になりますね。日本に帰ってきてから、何か変化はありましたか?

優河:私が帰ったとき、兄も妹もまだ留学中でいなかったんです。兄弟の真ん中なので、それまで甘えられないって気持ちがどこかにあったんですけど、急に一人っ子状態になって。半年間我慢してたのもあったし、学校は受験の時期だから友達とも会えなくて、すごく孤独を感じてしまったんです。…今までそんなことなかったんですけど、それから家でずっと泣いてる時期が続いて。

―そうでしたか…。そのとき学校は行ってたんですか?

優河:学校は受験期間でお休みだったんです。だから行くべきところも遊びに行くこともなく。それまで「優河はしっかりしてるから大丈夫」って思ってた親もさすがにどうしたんだろうって気付いて。とにかく部屋で泣き続けるって状態が3ヶ月くらい続きました。でもあるときケロッと治って、そこで“新生優河”が誕生したんです。全部出し切って「新しい自分が生まれた、もうツルピカ!」みたいな感覚でした。

―へぇ!

優河:そこから考え方がすごく純粋になりましたね。あんまり嫌なものを抱えなくなったというか、別人物って言えるくらい変わりました。

―切り替わった瞬間って自覚ありました?

優河:それが全然覚えてないんです。気付いたら「あれ、私素直になってない?」みたいな。その感じは、今も続いてます。毎日「お、昨日より素直だ!」っていう感覚がある。

―何かの目覚めでもあるけど、本来の優河さんに戻ったのかもしれないですね。

優河:そうなのかな…。それが起こる前は、結構肩ひじ張って生きてきた気がします。でもその後はもう赤ちゃんみたいな感じ!目に映る全てをそのまま受け入れるというか…、フィルターが薄くなったんですかね。どんな出来事も、自分の中にそのままストンと落ちてくる。あとそれまで全部自分でやらなきゃって思ってたんですけど、「ここからはあなたに委ねます」っていう行動が取れるようになりました。

―いい意味で人に頼れるようになったんですね。

うたのはじまり~ライブハウス“サラヴァ東京”との出会い

優河:それから、19歳の頃に“サラヴァ東京”っていうライブハウスでアルバイトを始めたんです。

―バイトを始めたきっかけは何だったんですか?

優河:サラヴァがオープンしたのが2011年の2月なんですけど、そのときボイストレーニングを受けていた先生がオーナーと友達で。そのつながりで、誰でも何でもできる “オープンマイク”というショーケースの第1回目に出演させてもらったんです。そこで歌ったら周りの人が意外にも反応してくれたようで。

―その歌唱力じゃ、そうなりますよね!

優河:(笑)。でも当時はあまり自覚なかったから、「何だろう?」って思いました。それからオーナーが「今の優河を形にしておこう」と声をかけてくれて、『Elegant』というアルバムを作ったんです。そこから「いろんなものを見て、音楽をちゃんとやりなさい」って言われてバイトを始めました。

―そうでしたか。最初音楽にはあまり興味がなかったっておっしゃってましたが、18歳の頃からボイストレーニングをやっていたってことは、もうそのとき“音楽をやろう”という意識はあったんですか?

優河:そもそものきっかけは高校生のとき学校の催し物で、AIさんの「Story」って曲を歌ったことなんです。そのときも気付かなかったんですけど、子供たちが騒いでるような体育館がシーンとなったらしくて。それを観ていた母親に「歌をやってみたら」って言われて、ボイトレを始めたんです。でも最初は習い事って感覚が強かったな。

―なるほど。しかし場が静まり返る理由って、ご本人は分からないものなんですね…。

優河:もう全然!こっちは緊張してガタガタ震えてるから、何が何だか(笑)。多分そのときはまだ音楽ってものを一生懸命聴いたことがなかったし…。私が、とかじゃなくて、“音楽にそういう力がある”ってことに気付いてなかったんだと思います。

人生観を変えた場所~一人旅で出会った「青の国」

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―優河さんの歌が人の心を動かして、流れができたんですね。はじめからシンガーソングライターでやっていこうと思ってましたか?

優河:はい。本格的に歌を始めてからは、どこかで“自分には歌いたいことがある”って確信してた気がします。音楽の専門学校に通って作詞作曲やギターの勉強も始めましたし。“自分が作って歌わないと意味がない、伝わらない”ってすごく思ってた時期がありました。けど実はそれってそこまで重要なことじゃなくて。今は、例えば誰かの曲を歌ったとしても、音楽そのものの素晴らしさがちゃんと伝わると思ってます。

―以前ライブで優河さんの「Hallelujah」(レナード・コーエン)聴いたとき、すごく感動しましたよ。あの日とても素敵なお手紙をお客さんみんなに渡してましたが、日記や手紙を書くのは好きなほうですか?

優河:そうですね、そんなに小さな頃からじゃないけど日記とか、何かしらの文章はよく書いていたと思います。20歳で一人旅したときは、日記も手紙も沢山書きましたよ!

―へぇ!どちらに行かれたんですか。

優河:フランスとスペインとイタリアです。1ヶ月くらいかな。

―その旅の影響も大きかったですか?

優河:はい。半分くらい兄と一緒だったんですけど、それでも半分は完全に1人で旅をしたっていう経験がすごく大きかったと思います。何ていうか、自分がピンときた土地と一対一で対話してる”って感覚が強かったですね。

―なるほど。特に印象に残ってることって何でしょう?

優河:フランスのモンサンミッシェルに行ったときは、全身ブワァ~ッてなりました。人生観変わりましたね。列車で行ったんだけど、モンサンミッシェルが見えてきた瞬間に衝撃で言葉を失いました。とにかくとてつもなく美しくて、これはすごいなぁ…と。あそこって昼間は砂浜も道もあるんですけど、夜になると潮が満ちて、砂の上にいるとだんだん足元が海水に呑まれていくんです。そのときの水と大地の動き方がもう怖いくらいで…。

―もしかしてアルバム1曲目の「青の国」で歌っている場所ですか?

優河:そうです!そのとき感じた地球の呼吸とか、空の青と、それが映った海の青がすごく濃密で。もう空と海がくっついちゃうよ!ってくらいの青。ここはピュアなものの存在が大きいんだな、と思いました。不思議な景色でしたね。あれは一生忘れないと思います。

―いつか行ってみたいなぁ。曲は旅行の後すぐに作ったんですか?

優河:しばらくは言葉にできなかったですね。ずっと覚えてたけど、どう表現したらいいか分からなくて。その後にサラヴァで始めたイベントの名前が“あおいおと”になったんです。で、テーマ曲を作ることになったときに初めて「あの歌を歌おう」と思いました。なので、少なくとも半年以上は間が空いてましたね。

―お話を伺ってると、いろんな偶然というか、きっかけが繋がってる気がしますね。

優河:ほんとにそうだと思います。…何でしょうね、普通あの曲作ろうって思わないですよね!あんな変な歌(笑)。

―(笑)変じゃないですよ!でも正直どこか“神がかってる”印象はあります。何か大きな、人智を超えた存在を感じるというか、少しの怖さと迫力があって…。そして何故こんな神秘的な歌詞や曲調になったんだろうなぁと思ってたんですが。そういった場所との出会いから来てたんですね。

優河:はい。きっとそういう場所って縁があるんだと思います。

―「青の国」はアルバムの1曲目に収録されていて、聴き手に与えるインパクトも大きいですよね。

優河:本当はアルバムの最後の曲にしようと思ってたんですよ。終わったかなって思わせる空白の時間の後にあの曲が流れ始めるという展開しか考えてなかったんです。でも一緒にアルバムを作ってくれた人に「これ1曲目だね」って言われまして。理由は超個人的なんですけど(笑)、「僕がDJやるときあの曲かけたら、次の人が出づらい。けどこの曲を最初に流したら、一瞬でその場の空気が変わるからって言われて。それで「それもありかもなぁ」と思ったんです。

―そうだったんですね!

ある光景が急に頭の中に浮かんで、涙が止まらなくて…。そこから生まれた曲なんです

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―ではここからはアルバムについて詳しく聞かせて下さい。牧村憲一さんが校長の牧村憲一音学校(おんがっこう)に通われていたそうですが、どういう経緯で作品を作ることになったんですか?

優河:牧村憲一音学校はセルフプロデュースを学べる学校なんですけど、今回のアルバムのプロデューサーのゴンドウトモヒコさんが講師でいらっしゃって、「サビのない曲を作れ」っていう課題があったんです。それを作ったら、牧村さんがユーフォニアム奏者でもあるゴンドウさんに「ゴンちゃんこれにユーフォ入れてよ」っておっしゃってくれて。そのアレンジが素晴らしかったんです。1つの楽器が入るだけで、シンプルだった楽曲がこんなに映えるなんてすごい!って感動して。まずそこでゴンドウさんと一緒に音楽をやれたらいいなって思ったんです。

―なるほど。

優河:そのあとまるまる1曲作ってみることになって、そこでできたのが「舟の上の約束」です。ゴンドウさんと初めて作った曲ですね。それがきっかけでアルバムの話が本格的になりました。

―『Tabiji』というタイトルはどうやって決めたんですか?

優河:これは、前からもし次にアルバムを出すなら“Tabiji”がいいなぁと思ってたんです。もとから“旅”っていうイメージがあって、その意味を広くとらえてほしかったから、ローマ字で。だからいざレコーディングメンバーとタイトル決めようって話になったときにそれを提案したら「いいね」って言ってもらえて、すぐに決まりました。


―「舟の上の約束」は「前夜に」と連作と伺いましたが、「前夜に」は「舟の~」の後に作られたんでしょうか?

優河:そうなんです。…「舟の~」も変な曲ですよね(笑)。

―いえいえ(笑)!すごく物語性がありますよね、2曲とも。私は聴く度に、まるで古い映画を1本観たような感覚を覚えます。それだけ“絵”を想像させる楽曲だと思うのですが、あの歌詞の世界観、一体どこから着想を得てるんですか?

優河:実は“ある記憶を思い出す”ような感覚…光景が、急に頭の中に広がったんです。うまく言葉にできないんですが、そこから生まれた曲なんですよ。

…!私もカメラマンの長小も「優河さんが本当にその景色を見ていたようだ」と話してたんです。アイルランドのケルトの音楽や、そのあたりの土地の絵や映像をイメージしながら歌ってるのかなとも思ってたのですが…。

優河:はい、アイルランドの風景っていうイメージはありますね。…ある人のライブを観ているときに、「舟の〜」で歌っている光景が浮かんだんです。それが何なのか分からなかったけど、その光景に伴って、自分の感情が激しく動いているのに気づいて。悲しいとか苦しいとか、淋しいっていう感情。そのときはもう、涙が止まらなくて…。

―そうだったんですね…。「前夜に」も、その一瞬の光景がもとになっている物語なんでしょうか。

優河:はい。あまり作りこみ過ぎちゃうのも違うなぁと思ったので、そのとき浮かんだイメージや感じた気持ちに寄り添って作りました。

人の素晴らしさは、その人の”身体と心の中”にあるもの

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―では、2曲目「たからもの」なんですが、これはある意味「青の国」から繋がっているというか、民族音楽のエッセンスが強いですよね。「昔の話を聞かせておくれ」「それからお前の宝を捜しに行こう」といった歌詞も印象的です。

優河:この曲は…たまに「何でこの人、他人や世の中をこんなふうに見るんだろう」って雰囲気の人に出会うんですけど、そういう人だって、最初から嫌な人なはずはないと思うんです生きてて、どこかの時点で自分の素直な部分を知らず知らずのうちに隠しちゃったり、“失くした”とか“もとから無い”って思ってしまってるような気がして。でも人の素晴らしい部分や輝く部分って、その人の身体の中、心の中に絶対あるものだと思うんです。だから例えば、他の人や物事の外側ばかり見て、いいなぁと妬んだところで、見つからない。きっと素直になればなるほど、見つけやすいんじゃないかって意味を込めて歌ってます。

―なるほど。音も思わず畏敬の念を抱いてしまうような“大地の力強さ”を感じるのですが、こういう雰囲気は詞から引っ張られてきてるんですか?

優河:私、曲作りは全部歌詞からなんです。この曲は結構アレンジに悩んで、2~3回バージョンを変えてもらいました。最初はポップスっぽい仕上がりだったんですけど、それだと“人の心の奥の方から呼び出したいもの”に届かない気がしたんです。それから紆余曲折あって、ゴンドウさんが最後に作ってきてくださったアレンジが、素晴らしくって。まさにこういうことだ!と思い、今回のアレンジにたどり着きました。

―歌詞の世界観とぴったり合ってると思います。

優河:ちょっと上から物申してる感じですけどね(笑)。自分なりに確信していることを表現しました。

歌って作り手が“所有”するものじゃない。だからどんどん旅してくれたらいいな

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―なるほど。優河さんの曲って歌詞の意味を聞かなくても、聴く人聴く人によっていろんな想像ができる“幅”が、特に広いと感じるのですが…。

優河:そうですね…。そういう意味では歌って誰も所有できないと思うので、どんどん曲が旅してくれたらいいなって思ってます。

―その思いって、アルバム全体にも反映してますか?

優河:はい。今回のアルバムに限らず、歌に対してそう思ってますね。

―“所有できない”っていうのは…?

優河:曲によってはもちろん個人的ことを歌ってるんですけど、音楽になった時点でもう好きに歩いてねって感じなんです。それをもし(自分が)所有してしまったら、聴く人の隙間ができないと思うから。歌を歌うときに“自分が歌ってる”って思ったら少し色が濃すぎるっていうか。

―自分はひとつの媒体、みたいな意識があるんでしょうか。

優河:はい。自分が歌ってる!なんて歌におこがましくて言えないって、私は思ってしまう。もちろん曲に責任は持たなきゃいけないんですけど、歌って形がないものだし…。人間だったら死んじゃうけど、曲は死なないし、いい意味で自由にしたらいいんじゃない?って思います。

根本的に、限定された年齢層に向けては歌っていないんです

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―1人ひとりの物語になりますからね。では次の曲「ヨーコ」について聴かせて下さい。以前お話していた「いつも天真爛漫で一見明るく素敵だと思っていた女性の、ふとした瞬間の淋しげな影を見たときに、この曲を作りたいと思った」というエピソードに、優河さんならではの、まっすぐな人への優しさを感じます。

優河:ありがとうございます。

それにカントリー調なのに歌謡のテイストも入っててかっこいい!最初に街の音が入ってるものいいなぁと。これは完全に“人”や“日常”から生まれた歌ですね。

優河:はい。この曲は“人のこと”を歌ってるので、親しんでもらいやすいかなぁと思います。

―楽器もバンジョーやフリューゲルホルンなど、いろんな音が聴こえてワクワクします。今作にはゴンドウさんはじめ、annie(中村大史)さん、元・森は生きているの谷口雄さんと増村和彦さん、千葉広樹さん、森田文哉さん(Noahlewis’ Mahlon Taits)、川畑智史さんなど、そうそうたるミュージシャンがレコーディングに参加していますね。

優河:はい、とっても心強かったです。中でもannieさんって何だか自分に感覚が近い気がしてて。ゴンドウさんと私が作る世界の架け橋になってくれましたね。

―音楽的にも人としてもすごくキーパーソンなんですね。ちなみにヨーコさんはお元気ですか?

優河:元気ですよ!こないだ吉祥寺のライブに来てくれました。

―この曲もそうですが「庭につづく」に関しては、喋ったこともないおじいさんのために曲を作ってますよね。それを歌うってある意味すごく特徴的だし、愛に溢れてるなって。

優河:私の歌は、根本的に限定された年齢層に向けては歌っていないんです。もちろん同世代の人からの支持もなかったら大変だけど、みんな同じ人間なので、年齢で見てないというか。

―そうか。そういうふうに人を見てるから “ヨーコさんという人の根本の美しさ”が伝わってくるのかもしれませんね。

「うわ、この人なんていい表情してるんだろう」って思った瞬間に曲ができました

―では次は「朝焼けごしに」。「哀しみを知るならばあなたを通して知りたい」っていう歌詞が沁みました…。これは純粋に“愛の歌”かなぁと思ったのですが。

優河:そうですね。私、人の一瞬の表情とかから歌を作ることがあるんですけど、これはそのパターン。歌っている相手の人の眼をふと見たとき「うわ、この人なんていい表情してるんだろう」って思った瞬間に曲ができました。曲の出だしが「覗き込んだ瞳が、朝焼けによく似ていて」なんですが、まさにその瞬間に生まれた曲です。

―なるほど。どこか切なさもある曲ですよね。ちなみに歌われてる本人はご存知なんですか?

優河:いや、知らないです(笑)。

切ないけど、結局“全てが思い出になる”んだったら「良いもの」のほうがいい

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―そうなんだ!その人が羨ましいですね(笑)。では続いて「思い出」について聞かせて下さい。これはある種“達観してる”というか、愛とはまた違った切なさを感じたのですが…。

優河:これはツアーで福岡に行ったときに、『陶花』っていう少し変わったカフェが山の中にあって。ちょうど3.11の日だったんですけど…。そこに当時一緒にツアーを回ってた方と空き時間に行ったんです。シンプルな建物で、灯油ストーブがあって、暖かくてぼんやりして、何にも話さないで…。そしたらふと“君は思い出”って言葉、いいなって思いついて。そこでメロディも思い浮かんだんです。その場で歌詞だけ先に書いた曲ですね。

―たった1つのフレーズからできた曲なんですね。

優河:はい。この歌は切ないけど、結局“思い出になるものが全て”だったら「良いもの」のほうがいいよなぁと思って。

―最後のギター、包み込むような優しい感じがして、すごく素敵ですね。

優河:ありがとうございます!

傷があったっていいじゃないか、傷つけあったっていいじゃないか

―では「それなら」ですが…。これは優河さんを大好きなカメラマンの長小が泣いてしまった曲でして(笑)。

優河:ほんとですか!?

―はい。彼女と私はそれぞれ違った視点で感動していて。曲って記憶とリンクするから、聴く人によって違った捉え方、ストーリーができるんだなぁと改めて思いました。この曲は「私の恐怖はあなたには何でもないの」「あなたの恐怖は私には何でもないの」と、2つの視点で歌ってますね。

優河:はい、補い合うイメージを持って作りました。例えばある人と一緒にいたいと思ったとき、喜びは同じでもいいけど、哀しみは違った方がいいよなって思ったんです。それが一緒だとやっぱりお互いに引っぱり上げられないっていうか。もちろん何も話を聞いてくれない人は嫌だけど(笑)、違う見方をできる間柄っていうのが大事で…。私がいてその人がいて、足りないところを互いにプラスしていく関係がいいなぁと思って

―個人的には“他人であることの切なさ”も感じたんですが…。

優河:そうですね、それはあると思います。でも傷ついたとしても、それが一緒にいる理由にもなっていくんだろうなって。だから別に傷があったっていいじゃないか、傷つけあったっていいじゃないかっていう。

“あのとき”があったから今がある。そう考えると“ひとつの旅”として全てが繋がっていくんです

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―なるほど。では「旅路」についてお伺いします。アルバムタイトルと曲名が一緒なので、メインテーマという意識で聴かれるところはあると思うんですが、その辺りはいかがでしょう。やっぱり今の状況や思いが反映してるんでしょうか?

優河:そうですね。実はこの曲「前夜に」と「舟の上の約束」の続編なんです。生きていると歓びも哀しみもひっくるめていろんなことがあるけど、その全てが道標であって、通るべき事柄だと私は思ってるんです。「あのときああしていれば」っていうのはただの後悔でしかないし、“あのとき”があったから今があるんだし。そう考えると“ひとつの旅”として全部が繋がっていくんですよね。

ーはい。

優河:だからこういうふうに歌を作っているのも旅のひとつであって、つらいことも嬉しいことも、進むための道だと思ったら、もう少しよく生きられるんじゃないかって思って作った曲なんです。例えば「舟の~」の物語では2人は離れ離れになっちゃったけど、全ては道になって繋がってるって考えたら、自分がこれから歩んでいく人生が“間違った生き方”にはならないと思うんですよ。身近な感覚で言うと、「今自分が嫌な時間に取り込まれてるな」って思うことが少なくなるっていうか。この曲、最初は「探しに」っていうタイトルだったんですけど、「旅路」に変えたんです。

―前向きな印象と、静かな力強さを感じました。

優河:そう、すごい前向きなんですよ!今生きてるってことをプラスに、いいほうに考えるっていう。

どんなおじいさんだったんでしょうね。多分元気で気丈な人だったんだろうな

interview yuga 12

―では最後の曲、「庭につづく」について聞かせていただけますか?

優河:この曲は、近所でいつも綺麗に庭の手入れをしているおじいさんがいたんですけど、あるときから見かけなくなって。近くのスーパーの店員さんに聞いたら、亡くなったと教えられたんです。もちろん手入れをされなくなった庭の花や植物は枯れてしまうものもあったけど、その中でも元気に育っている草花があって。それを見て、彼とその庭へ想いを込めて作りました。

―口も聞いたことのない、亡くなってしまったおじいさんと彼の庭のことを歌う。優河さんにとってそれは特別なことじゃないんだろうけど、その意識こそが“優河さんらしさ”の大きな1つなんだと、お話を聞いて感じました。

優河:ありがとうございます。どんなおじいさんだったんでしょうね。多分元気で気丈な人だったんだろうな…このエピソードがなかったら、どういうふうに聴こえるんだろう。

―私はこのエピソードを聞いてますます好きになったのですが、きっと知っていてもいなくても、さまざまな物語が生まれている気がします。この曲の始まりにも街の音が入っていますが、すごくいいですよね。

優河:これはゴンドウさんのアイデアなんですが、街の中、っていうイメージを出したかったんですよね。私もアレンジで一番好きな曲かもしれません。そうだ、実は私この曲だけエレキギター使ってるんですよ!

―あれ優河さんが弾いてるんですか!?

優河:弾いたことなかったんですが、やってみなよって言われて(笑)。エレアコで録りました。

―どうでした?実際弾いてみて。

優河:いやぁ何か似合わなすぎて…。見ないでほしいなぁと思いつつ演奏してました(笑)。

―そうなんですね(笑)。ちなみに、この曲を最後に選んだ理由って何でしょう?

優河:やっぱり最後は少し力が抜けるような曲で終わらせたかったんです。「前夜に」「舟の~」が結構重いので。「青の国」だとう~んってなっちゃうし(笑)。

―(笑)。すごく素敵な終わり方ですよね。

結局、全ては“青の国”の中で起きていることなんです

優河:…「青の国」が一曲目で、最後が日常の中から生まれた「庭につづく」だと、結局全ては“青の国”の中で起きていること、みたいな感覚があって…。そう言えば青って地球にアメーバが生まれてから、生物が最初に認識した色だ、という説があるそうなんです。それって海の色じゃないですか。だから海の青って“始まりの色”だと思うんです。個人的にも大好きな色なんですが、安心するっていうか、どこか無限を感じさせるし。アメーバからポコッて生まれた生物が人間になって、青の国を築き上げてきた…ってイメージが、何かいいかなって。

―「青の国」から始まり、それが全てを包み込んでるイメージなんですね。…少し話が飛びますが、影響を受けたアーティストさんっていらっしゃいますか?

優河:よく聴くのはニーナ・シモン、エンヤ、ジュディ・シル、カレン・ダルトン、サンディ・デニー、ダミアン・ライスですね。エンヤはずっと聴いてましたけど、音楽を始めたきっかけになったとか、影響を受けたアーティストっていうのはいないかもしれません。でもアイルランドの音楽は好きですよ!

まっすぐな想いとともに、“新しい旅”がはじまる

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―そうなんですね。優河さんの音楽って、本当に優河さんからしか生まれてないんだなぁ。では最後に、『Tabiji』に対するご自身の思いを聞かせていただけますか?

優河:初の全国リリースなので、やっぱり新しいフェーズに入ったというか、旅の始まりを象徴しているような作品ですね。何が始まるか分からないし、不安もあるけど、きっと進んでいけば会いたい人にも会えるだろうし。旅に出る前ってエネルギーがふつふつと湧いてきて、「よし、旅立つぞ」っていう気持ちがすごく高まるんですけど、このアルバムにはそういう“熱”も詰まっていると思います。

―こんなふうに届いてほしい、という思いやメッセージがあれば教えて下さい。

優河:「人間や人生って、良いところや素敵なことが沢山あるよね」っていうのが伝わったらいいな、と行き詰まっていたり、ふさぎ込んでいるときに聴いてもらって、フッと力が抜けるような気持ちになってもらえたら嬉しいです。きっと時には何もかもが金属やプラスチックでできているような、冷たい世の中に感じることもあるかもしれないけど…、そうじゃない“温度”が伝わったらいいな、と思ってます。

優河:http://www.yugamusic.com

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special thanks! ムムリック・マーフィー

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