oto machi

~見つける、つながる。音楽の街~

Emerald 中野陽介 1st Mini Album『On Your Mind』INTERVIEW 後編

ー私、中野さんの歌詞って、永遠に埋まらないことの悲しさや暗さがどこかにあるから好きなんです。もちろんそこだけじゃないけど、楽曲や言葉がキラキラしていても、その悲しさや暗さが根底にあると感じてて。

中野:その通りです。僕もそういう音楽好きなんですよね。

ーそういう、作り手の深みが滲み出ている。埋まらない気持ちや二度としたくない体験って、やっぱり自分にもあるんです。でもその体験込みで、今があってよかったって思うんですよね。だからいろんな経験をして何層にもなった中野さんの言葉は、すごく沁みます。

中野:褒められた(笑)! ありがとうございます。この曲は早くライブでやってみたいですね。相当いいんじゃないかな。ちなみにライブのセットリストも、全部藤井智之が作ってます。 

ーそうなんだ!

中野:一番客目線で自分たちを客観視できる人だから。バランスもいいし、でもときどきものすごい偏愛的な部分があって、そこが面白いですね。

ーそれは音楽に関して?

中野:彼の中に「こうありたい」というイメージがハッキリあって。それを軸にバランスを取ろうとするんです。それがすごく面白い。ただバランスがよくてオシャレに聴きやすくしようってだけだったら俺も「うるせーっ」てなるんですけど(笑)、割と自分の美学を偏執的なまでに信じてるというか、強いんですよ。それがあるから信頼できるんです。


3.11を無視して作られた音楽って、リアルじゃない感じがする

ーでは最後の曲、「Feelin’」について聞かせて下さい。

中野:これは『Pavlov City』におけるラストの曲、「黎明」的なポジション。チルアウトの曲ですね。今回のアルバムの中で一番古くて、2011年に俺がソロで作ってました。

ーこの曲を収録しようと思った理由は?

中野:当時バンドでアレンジしたとき、すごくよかったんだけど、あの頃はR&Bにガッツリ寄ったものを作りたかったから、この曲にあまり時間をかけられなかったんです。でも今回、ポップな曲で揃えようって方向性が決まったときに、「メロディーが立ってるこの曲があるじゃん」ってなり。新しく作るのもいいけど、当時出せなかったものをリアレンジして世に出せるんだったら、それは後々バンドにとってもいいんじゃないかなって。そうしないとこの曲、ずっと眠っちゃうわけですから。

ーうん、もったいないですよ。歌詞についてはどうですか。

中野:音楽やってると、たまに自分で「これを書こう」と意識してないことが“降りてくる”って感じが、俺は結構あるんですよね。普段は目の前のことに追われて日々必死なんですけど、ときどき高次の自分の魂みたいなものから、言葉を受け取ってるのかなと思うことがあって。この曲の歌詞は、そんな流れでできたんです。

ーへぇ!

中野:たとえば自分が3年前に言ってたことが、ほんとに3年後に現実になってたりとか。そのとき自分は何のことかわからない。でも人生が、自分が書いたその詞の方に向かってるなって気づくときがあって。現実を引き寄せてる感じなんですよ。…だとしたら、売れたいって歌詞を書けばいいのかな(笑)。

ーそして3年後…! みたいな(笑)。

中野:(笑)。当時は2011年だから震災の影響も大きくて、どこか社会的なことを考えて書いた気がします。今僕らは普通に生活してるけど、震災、災害があったところの人達はまだ苦しい生活が続いているし、たとえば今も危険な施設の中にいて働いている人たちはいるわけじゃないですか。そういう人たちのことをどこかで考えてたのかなぁ。この歌詞を読み直すと、そう思う。

ーはい。

中野:ただ、そういう人たちに限らず、みんな日々いろんなことと戦っているよなぁとも思うんですよ。だから、歌詞の1番は都市で戦ってる人。2番は被災地などで命がけで戦ってる別の人。夕暮れの静止画を堺に、お互いの心音を聴いているイメージなんです。繋がってるというか、「いつかのラブソング」で繋がってるというような。

ーそれを聞くと、曲の捉え方も変わってきますね。

中野:ですよね。けど、やっぱり社会的なものをメインにしたいわけではなくて。ただ2011年以降、震災って社会的な出来事として日本人の精神にかなり大きな影響を与えているから、それを無視して作られた音楽って何か響かないんですよ。現実味がないっていうか、リアルじゃない。「瓦礫」や「平和」が歌詞に入っているような曲が、こういうポップなアルバムに存在するほうが、よっぽどリアリティがあるなと思う自分がいます。

ーそうですね。

中野:あと、俺はこの「願いと祈りの声が届く/吸い込む悔しさに/堰を切る声」っていうのは、震災当時のSNSから感じたものでもあって。いろんな人がいろんなことを言う。それらは応援という思いからきてるものでもあって、でも自分がそこにいるわけじゃなかいら、何を言っていいかわからないという不思議な言葉たち。だけどその声をあげる人達も「自分たちが立っている場所から被災地に対してできること、できないことの無力さ」が悔しさになって、ダムが決壊したみたいに、いろんな人がいろんなことを言ってるなって。

ーなるほど。

中野:でもそうした状況を一身に受けながら、たとえばとてつもなくヘヴィな環境でも、呼吸しなきゃ死んじゃうから。まずは自分の心を静めるために、息も吸えないような場所で思いっきり深呼吸する、みたいな。そういうどうしようもない切なさを歌いたかったんです。

ーそうだったんですね…。そこまで想像がつかなかったです。

中野:そんな2011年の自分が受信したものを、バンドにプロデュースしてもらいました。社会的な部分が前面に出ないよう意識しているので、もちろんそうはなってないけど。

ーけど秘められた思いがこういう形で出たんですね。もっとシンプルに「切なくて余白があって、いい曲だな」と感じてた曲から、深く考えさせられました。

Emeraldという最高のバンドで歌える幸せ

 ーではここからは、バンドや中野さんご自身の今について、少しお伺いできればと思います。Emeraldは、みなさんがちゃんと自立しつつもよい関係性を築いていて、それがダイレクトにライブや音楽に繋がっている印象を受けるのですが、中野さんとしてはいかがですか?

中野:
そう
ですねぇ。絆で結ばれるバンドを作るのには時間がかかるし、それぞれがそれぞれを理解しつつ、成長し続けないといけないなって思ってます。Emeraldも今の関係性に至るまで7年。もちろんいろんなことがあったけど、その都度立ち止まってみんなで考えたり、一回持ち帰って飲み込めないものを飲み込む努力をしたり。俺は、人がどういうことを考えて生きているんだろうってことなんかを一生懸命想像してきました。

ーなるほど。

中野:俺は前のバンドの失敗もあるから、反省材料を惜しみなく生かしているつもりです。大学の頃に初心者で組んだバンドで10年やってきたんだけど、それが本当に思わぬ形で、最悪の形で終わっちゃったんで。それを思うと、7年かけて続けてきた今の関係性をすごく大切にしてると思います。

ーその経験があってこそのEmeraldですよね、きっと。

中野:うん。そして、そんな俺とエメラルドの5人が出会ったということが、自分にとっては…、家族とは言いたくないんですけど、音楽でつながっているから。何ていうか、魂の修行場みたいな。

ー修行場なんですね。中野さんの気持ちに、他のメンバーも近いんですかね。

中野:そこまでは分からないですけどね。他のメンバーとは社会経験の質がまた違うので、俺はときどきみんなが考えてないことを考えちゃったりするんです。そういうときジレンマに陥ったりするんだけど、イライラとか苦しさを差し置いても、とにかく全員で音を鳴らしたときのすごさみたいなものが、結局ずっと勝ち続けているんです。

ーすごく、よくわかります。

中野:もしいい音楽じゃなかったら、とっくに投げ出してましたよ。あとはメンバーが、音楽というものを大事にしながらも、ちゃんと自分の生活、軸というものを大切にしているからだと思う。こうして続けられてるのは。

ー絆ごと演奏に出るバンドって滅多にいないと思うんですよね。Emeraldのライブは、観ているこちらも、そのエネルギーにすべての苦労や辛さがふっとんでしまう。

中野:Emeraldはもちろん売れたいし、見つけてほしいけど、日本で音楽が文化としてもっと認識されていけばいいって思う。その立役者の一つになりたいって気持ちはありますね。だから周りのバンドのことも大切に思ってるし、思ってもらってる。いい仲間がたくさんいます。音楽だけじゃなく、それごと伝えたいんです。

それに意味があると思うんですよ。その姿勢ごと愛されている、愛する力があるのが、音楽に直結してる。一見直結してないようにも思えるけど。

中野:そうですね。そんな素敵なチームが世間に認められずいつか活動を止めてしまうということがあるのか? と思うと、歌う立場でありながら、レーベルマン的な気持ちにもなるというか。どう広げるか、仕組みの方まで頭がいっちゃうんですよね。Emeraldはもともと演奏に対する気高さみたいなものはあったんですけど、どんどん洗練されていってると思うんですよ。もはやどこかほぼ他人目線で(笑)、いいバンドだなぁ、こんなバンドで歌えて幸せだなって感じてます。みんな天才ですもん。

愛されなかったら、認められなかったら。人間、消えちゃうよ(笑)

中野:音楽作って、世に問うからには、本気で美しいものを作っていかないと、ね。意味がないことに人生の貴重な時間を使っていることになっちゃうから。その自覚も大事かなと。10年20年続けていく中で、楽しいだけじゃないところをみんな乗り越えていくわけじゃないですか。どのバンドも制作自体はみんな一生懸命やっているはずだし、みんな上手くなるために、とにかく曲を作ることに集中する。それが世の中にとって価値があるという文化が、日本にはないと思うんです。売れて初めて価値が出るっていうのは、世の中のゲーム、ルールとしては正しいとは思うんだけど。売れることが何より大事というか。

ーはい。

中野:でも海外から帰ってきた友達の話を聴くと、「街角で歌っているミュージシャンにも、みんな敬意を払うんだよ」と。ミュージシャンであることはとても誇らしいという「文化」がある。でも日本では、極端に言ってしまえば、売れなかったらゴミクズみたいな扱いを受けてしまうことだってあるから。

ーそうですね…。私自身も、悔しい思いをしたことがあります。

中野:うん、そう。悔しいんです。消えちゃいたくなるくらい悔しい(笑)。ずっと音楽作っている人間としては。でも、売れないのを社会のせいにしていてもやっぱりダメだし、居酒屋でダラダラ文句言いながら今の世の中が悪いって言ってるのもね。逆にミュージシャン側から、ちゃんと伝える必要もあると思う。今はファッションとして音楽が聴かれる時代だから、世の中のニーズをしっかり組み込むとか。それ自体は全然いいことだと思ってるし、音楽への間口は逆に広がったなって俺は思ってます。

ー今その通りだな、と思いました。社会に対しての怒りも含めて

中野:(笑)。でもそうかも。悔しい思いは強いですね。だって消えて無くなっちゃうじゃん! 愛されなかったら、認められなかったら、人間、消えちゃうよ(笑)。必死で曲を作ってるのに…。

ーわかります…! 立場は違えど強く共感します。このまま酒飲みたい(笑)。

『On Your Mind』は、バンドの“正面玄関”

ーそれでは、話は戻りますが、このアルバムの立ち位置や存在を一言で表すなら?

中野:…玄関! 正面玄関。表札が横にある、庭の門みたいな感じかなぁ。外から見られるところに置いておきたい。で、正面玄関を開けて庭を通って家の中に入ったら、『Pavlov City』も『Nostalgical Parade』もあるよ、みたいな。庭や家の中で行われてるライブもめっちゃいいよ、って。これ(『On Your Mind』)に僕らのすべてが詰まってますというのは少し違うかなって。そう思われたらもったいない。

ーすごくしっくりきますね。正面玄関。

中野:渾身の一作ではあるんですけど、玄関ってそこをきっかけにみんなが家に遊びにきてくれるかどうか、左右するじゃないですか。手紙も届くし、どこか行くにもそこを通るし。だから、聴く人にとっての入り口になれば嬉しいですね。

Emeraldの核は、俺以外の“5人”

ー昨年から智之さんの実の兄、藤井健司さん(Mani.)も正式メンバーに加わりましたね。

中野:はい。彼も元々曲が書けて、トラックも作れる人だから、彼の案を1曲モノにしたいなっていう思いは、メンバー全員あると思います。

ー楽しみです。最後にお聞きしたいのですが…、Emeraldの“核”って何でしょう? バンドの成り立ち含め素晴らしいと思うので、聞いてみたかったんです。

中野:…エメラルドって宝石じゃないですか。それが核かなぁ。難しいですけどね。6人が集まってやろうとしている、何かを作ろうとしているその結晶がEmeraldなんです。みんなの気持ちがひとつのものに向かっていくことが、結果的に宝石の名前になったというか、核になるというか。

ーなるほど。

中野:うーん…(ずいぶん考えて)、でも、突き詰めると、俺以外の5人じゃないですか、Emeraldの核は。あの音がなかったら結局俺もこんなに続けられないし、新しい言葉もメロディーも生まれない。エメラルド=俺以外の5人。最近本当にそう思っています。歌わせてくれてるんですよ。よすぎるんです、音が。ステージにいてもバーンと後ろから包み込まれて持ち上げられるような。それでテンショ上がっちゃうんです。もはや謎の儀式、瞑想(メディテーション)に近いすごさがある。

ー中野さんの今のバンドへの気持ち、聞けてよかったです。

中野:だから、本当はライブでも、お客さんを同じ気持ちにしたいんですよ。あの音のすごさを全身で感じてほしい。自分が歌ってるからメインで立ち振る舞ってるけど、俺がそうなる理由は、あの5人がいるからなんです。

Emerald offical website

『On Your Mind』

配信はこちら

special thanks! titi cafe

 

文/ 山田百合子 撮影/ 長塩禮子