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LIVE REPORT showmore one_man live『newscope #0』2018.12.5@渋谷WWW

 「止まない雨はないとか、そういう前向きな言葉、私は全然好きじゃない。ずっと止まない雨もあるから」

初めて観たshowmore。私が思わず涙ぐんでしまったのは、ボーカル根津まなみのそんな言葉がきっかけだった。ゾクゾクするようなライブ展開に散々ヤラレタあとだったから尚更だとは思うが、彼女は満員のライブハウスのステージの真ん中に立って、そうつぶやいたのだ。

showmoreは、スタイリッシュでエモーショナル、なんて言葉にはとても収まりきらないタフなユニットだった。音楽性と人柄が、ガッツリ結びついているように、私には思えた。

根津まなみ(showmore/vo)

 ライブは2部構成。しんと静まり返った会場に、硬質な音が響き渡る。1曲目は「red」。機械のようなドラム。一音一音すべて耳で拾えるピアノやベース。歌も音楽の一部として機能していて、ソリッドで緻密な構成に息を飲む。5曲目に彼らの代表曲「circus」が披露されると、ひときわ歓声が上がった。クールな色気を纏う井上惇志のキーボードが軽快にイントロを鳴らし、そこへ根津の歌がグッと入ってくる。

井上惇志(showmore/key)

8曲目では伊藤修平(cello)が登場し、ストリングスの旋律が光るシングル「dryice」を演奏。MCで根津は、伊藤を「様」付けで呼ぶとか、レコーディングで演奏を聴くたび泣いたとか話しながら、熱い視線で彼を見つめる。彼女は、女でありケモノだと感じた。不思議な魅力を放つ強い人。

 1部が終わり、ドラムとベースの演者が変わる。その間も音は鳴り響く。入れ替わった後の演奏は、まさにエモーショナル。バンドは一転して、生々しいひとつの生き物となった。showmoreというバンドの二面性がよく分かる、印象的な魅せ方だ。

「この曲をすべての女子に捧げます」という言葉の後に歌われたのは「bitter」。男に寄りかからないと言い放ちながらも「繰り返す」で締めくくる、とてもリアルで、思わず共感してしまうような歌詞だった。

 続いて今最も注目されているシンガー&ラッパーのSIRUPが登場。彼のスイートなナンバー「LOOP」をデュエットし、新曲「now (feat. SIRUP)」も披露。2人のかけ合いや、サビのパワフルであけすけなシャウトが、スリリングで素晴らしかった。

 再びバンド編成に戻り演奏されたのは、CHARAのカバー曲「恋をした」。なんて力強いんだろう。胸が軋むようなラブ・バラード「call my name」、そして情景や心象が手に取るように浮かぶ切ない名曲「rinse in shampoo」が、ラストを飾る。

アンコールは美しくロマンティックな「aurora」、そして北海道の震災時にラジオで流れたというエピソードが印象的な、何気ない日々への祈りを捧げた「have a good day」で幕を閉じた。

 根津には、もう二度と誰かと一緒に音楽はやらないとまで傷ついていた過去があった。今日、このステージに立つのが怖くて、嫌で嫌でしょうがなかったと言っていた。でも、彼女はそこに立っていたのだ。井上という強力なパートナーと一緒に。

「僕らは皆が思うより下積みが長い。ようやく聴いてもらえるようになって、立てたこのステージ。ユニット始めるとき、根津に3年でLIQUIDROOM連れてってやるって言ったんだけど、WWWでもすごいよね(笑)。…10年以上音楽やってると、辞める人がどんどん増えてくる。けどこうして皆が来てくれるから、続けられます」少し照れくさそうに話す井上の姿に、幾多の努力と苦悩と情熱を垣間見た。

 私はこの日、どんな楽曲からも滲み出る根津の「叫び」に惹かれていた。そして猫のように甘えた表情や、過去の苦い体験や決意を滲ませるMC。かと思うとバンドメンバーを「お前」呼わばりする飾らなさ。そのすべてをひっくるめて受け入れられていることに、勇気づけられた。それらは生で彼らのステージを観るまで、わからなかったことだ。

手に触れられるかのような生々しいまでの感情が、曲から、歌から聴こえる人たちの音楽が好きだ。彼女はある種の女性たちと、おそらく近い感性と心を持っている。そしてそれを表現する力がある。だから同性をも強く惹きつけるのだ。もちろん熱烈な男性客や、幅広い音楽ファンも。

 さて私は、冒頭に書いた根津のMCを聞いて涙ぐんでいた。自分と彼らの生き方を勝手に共鳴させて。ときにグチャグチャの感情を抱え、情けない、悔しい思いをしながら諦めず、ステージに立っている2人の人間がそこにいた。その事実にどれほど救われていたか。

根津のそのMCの後には、一言、続きがあった。

「けど、生きてれば…まぁ、何とか、なる」

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山田百合子 撮影 ハヤシサトル  

【SET LIST】
1.red
2.1mm
3.strobo
4.unitbath
5.circus
6.floor
7.gps
8.dryice
9.scope
10.bitter
11.LOOP(SIRUP)
12.now feat.SIRUP
13.spotlight
14.恋をした
15.call my name
16.rinse in shampoo

en1.aurora
en2.have a good day

support musician
1~8. dr 櫃田良輔 ba 田口恵人(LUCKY TAPES)
9~en2. dr タイヘイ(Shunské G & The Peas)  ba 玉木正太郎(Lululu)
8・en2. cello 伊藤修平

showmore(ショウモア)
根津まなみ(Vo/作詞/作曲)、井上惇志(Key/作曲/編曲)の2人によるセンセーショナル・ポップユニット。その音楽性はジャズやヒップホップを下敷きに多彩な表情を持ち、キャッチーな歌詞と旋律で切なくアダルトな世界観をビビッドに描き出す。