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LIVE REPORT Emerald『Magic in Moon Night』2018.11.21@渋谷WWW

 この日私の心は、カチコチに固まっていた。日々の仕事や人間関係、様々な疲れが澱のように溜まっていて、そのうえ久々のライブレポート。こんなんで心の奥底がちゃんと起動するのか? 正直言って、不安だったのだ。しかしEmeraldのライブは、そんな心配を一瞬でふっ飛ばしてしまった。最初の一音が鳴り響き、会場が光で包まれた瞬間に。それは決して照明の輝きだけではない。紛れもなく彼ら自身が発していた「光」だった。

 まずはオープニング・アクトのMime。ブラック・ミュージックを軸にした煌びやかなサウンドと、ボーカル・ひかりの可憐でソウルフルな歌声が、客席を熱くする。続いてメロディアス・インストバンドbohemianvoodooが、息を呑むほどドラマチックな演奏で観客を魅了。目の前に物語が浮かんでくるようなめくるめく曲展開、魂のこもった一音一音が、音楽家としてのキャリアを表していた。

 そしていよいよEmeraldが登場。階段まで満員のフロアに、歓声が上がる。オレンジ色の月を思わせる照明が、パァッと会場を照らした。
ステージの上には、先日正式メンバーとなった藤井健司を含むEmeraldの6人に加え、サポートでホーン隊5人、コーラスにえつこ(DADARAY/katyusha)、ギターにユースケ(TAMTAM)という、計13人の大所帯。圧巻かつ華やかな光景が目の前に広がった。

 「何事も始まりが肝心。踊っていきましょう!」ボーカル・中野陽介の一声で奏でられたのは「Holiday」。キラキラした音の波と祝祭的な雰囲気が、客席を一気に包み込む。力強いホーン、手拍子で観客をあおる中野。それを鼓舞するような、えつこのコーラスが気持ちいい。あっという間に笑顔が広がり、これから始まるライブへの期待が充満していった。

 続く「JOY」では、ゆっくりと回るミラーボールの下、中野がゆらゆらと泳ぐようにステージ上を動き回りながら、伸びやかなファルセット・ボイスを聴かせる。この日は12月12日に発売されるミニアルバム『On Your Mind』のプレリリースライブ。3曲目には、その中からMVも作られているリード曲「ムーンライト」が披露された。一度聴いたら忘れられないキャッチーなメロディーと切ない歌詞、Emeraldの新境地と言っても過言ではない名曲に、会場の熱気がひときわ上がる。

 何でだろうなぁ。不安やギスギスした気持ちはすっかり消えてなくなってしまった。私は彼らのライブを観るたびに、音楽を好きでい続けることを、放棄できなくなる。性懲りもなく、希望を抱いてしまう。Emeraldは、そんな音楽の魔力や輝きを体現できるバンドなんだと改めて感じた。

 その後メンバー紹介を挟み、同アルバムから「Heartbeat」を演奏。ホットなホーン、スリリングな曲の流れに、体が自然と踊り出す。頼もしいバンドをバックに、中野がいっそう軽やかにリズムを刻み、会場を盛り上げた。何より演者全員の楽しそうな姿が、さらに会場を熱くする。

 虹を思わせる幻想的な照明の中で歌われた「step out」の後は、先行配信もされているシングル「東京」。都市で生きる人の忙しくも淡々と過ぎていく日常を、メロウな曲調でしっとりと聴かせた。幾重にも重なるサウンドは、さながら魔法のように美しく、聴き手を魅了しながらも、一音一音がはっきりと響きわたる。輝く音の洪水に、誰もが身を委ね、酔いしれていた。

 そして、いつにも増して楽しそうなMCも印象的だった。まるで仲の良い家族や友達の日常会話のような彼らのトークは、客席までリラックスさせてくれる。これもまた、このバンドの魅力の一つだなぁと思う。
あっという間に迎えたラストの曲は「黎明」。心地よい解放感とともに、会場の空気がゆっくりとチルアウトしていき、本編は幕を閉じた。

ENCORE!

 熱いアンコールに応え、ステージに戻ってくるメンバー。「ずっと置いていたアコギを使う機会があってよかった! みんな空気を読んでくれてありがとう(笑)」。そんな中野のMCが笑いを誘う。そして奏でられたのは、代表曲「ふれたい光」。

 老若男女で賑わう客席をふと見渡すと、スーツ姿の男性が満面の笑みでステージを見つめていた。それはきっと、ここでしか見られないものだ。「みんなの生活の中に、少しでも“余白”を作りたい。今日この場所に来てくれた方々は、僕の誇りです」。中野が語ったそんな言葉を、スーツ姿の彼がまさに表しているように思えた。

 客席の照明がついた後も鳴り響く、2度目のアンコール。それがこの日のライブの素晴らしさを、何より物語っていた。

 よろこび、かなしみ、切なさ、さみしさ、愛。幾多の想いや感情を抱え、それを音楽で表現する中野陽介。そして彼を素晴らしい演奏で支え、共に歩んでいくメンバーたち。たくさんの仲間を愛し、たくさんの仲間やリスナーから愛されるバンド。いま最も充実した時期に踏み出しているEmeraldを、さらに多くの人に見てほしいと、心から願う。

 終演後、「すべての苦労がふっ飛ぶくらい楽しかった」と中野が話してくれた。演者も聴き手とまったく同じ思いだったことに驚き、喜びを噛みしめる。不安だった気分はどこへやら。どんなふうにこの夜のことを伝えようか、ワクワクしながら家へと急いだ。

【SET LIST】
1. Holiday
2. JOY
3. ムーンライト
4. Heartbeat
5. step out
6. 東京
7. 黎明
en.ふれたい光

Emerald are…
Nakano Yosuke / Vocal
Fujii Satoshi / Bass
Isono Yoshitaka / Guitar
Nakamura Tatsuto / Keyboards
Takagi Akira / Drums
Fujii Kenji / Manipulator
E
merald-offficial HP

Support Member
cho. えつこ (DADARAY / katyusha)
Gt. ユースケ (TAMTAM)
TSax. amon (umber session tribe)
ASax. miharu (umber session tribe)
Tp. pontaro (umber session tribe)
Tp. Kazuki Yasui
TSax. Kazunori Matsuzaki